東京五輪がロンドン世界陸上から学ぶこと 2020に見たい「デジタルおもてなし」

濱本秋紀

ハードだけでは足りない混雑解消

スタジアムからストラトフォード駅まで、夜の歩行者渋滞は続く 【写真:濱本秋紀】

 6万人の観客が一斉に帰路についた大会初日。通常は歩いて15分ほどの道のりが、初日はスタジアムの席から駅にたどり着くまで1時間近くはかかっただろう。大会運営的には見せどころだが、残念ながらロンドン世界陸上では目新しい策は用意されていなかった。

 最近のスマートスタジアム構想では、スタジアム周辺のヒートマップで歩行者渋滞を運営スタッフが把握し、様々な手法で渋滞緩和に努める取り組みが始まっている。

 例えばブンデスリーガのバイエルン・ミュンヘンが本拠地としているアリアンツ・アリーナでは、周辺の道路状況をモニタリングしてアプリを通じて迂回ルートの案内を配信する実験が始まっているし、あふれる乗用車に対してもライドシェア(相乗り)での移動を推奨している。

 試合後にスタジアム内レストランのディスカウントクーポンを発行して、ファンにしばらくスタジアムに留まってもらう策なども検討されている。観客も大会運営側が自分の状態をモニタリングしてくれていて適切なガイドをしてもらえると分かれば、不安は減り、ストレスは軽減するだろう。

 道路整備やシャトルバスの運行など、ハード面の対応だけで混雑が解消できないケースは多い。そこである程度混雑することを前提にモバイルアプリなどのテクノロジーでファンの不満緩和策を実施することは今後のスタジアムでスタンダードになっていくだろう。

「世界最高水準のテクノロジー」でおもてなしを

観客とセルフィーに収まる5000メートル覇者のモハメド・ファラー(イギリス) 【Getty Images】

 陸上競技をやっている(た)人からしてみたら、サブトラックで行われる一流選手のアップ・ダウンは見てみたい姿の一つだろう。運が良ければサブトラックに入るお気に入りの選手からサインももらえるポイントだ。

 プロのゴルフトーナメントでは選手が練習しているエリアがものすごい人だかりになる。試合を見ずにそこでずっと見ている人もいるくらいだ。しかし、陸上競技ではサブトラック近辺の一般の出入りを禁止している場合が多い。

 競技者視点で非公開にしたいのも分かるが、ファン視点でもビジネス視点でも(有償でもいいから)是非オープンする方向で見直してほしい。

 その点、ロンドンではサブトラックのロケーションが秀逸だった。メイントラックの真横にサブトラックが位置しているため、2階のメイントラック周回通路から下のサブトラックを眺めることができたのだ。競技プログラム前後にアップやダウンをしている選手もいるので、サブトラック観戦を解放したら帰路の渋滞緩和にも繋げられるだろう。

 大会運営の観点では、ウサイン・ボルト(ジャマイカ)の引退試合となることが早々に決まり、チケット販売も好調。食中毒以外は目立った問題は起こらなかった。しかし、5年前に五輪を経験したロンドンだからこそ最先端の大会運営をして欲しかった。及第点を目指した大会運営だったというのが率直な感想である。

 東京2020は基本コンセプトに「世界最高水準のテクノロジーを競技会場の整備や大会運営に活用」と謳っている。新国立競技場でどのようにデジタルおもてなしが提供されるのか、楽しみである。

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著者プロフィール

SAPジャパン株式会社のマーケティング部門でコーポレートイベント・ブランディング・スポーツスポンサーシップ・デジタルマーケティングなどの責任者、製品マーケティングの企画・実施、ユーザーグループの企画・運営などを経験。2016年より、プロスポーツクラブのマーケティング・ファンエンゲージメントを支援し、スタジアムソリューションの事業開発などを担当している。

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