躍進の21歳・阿武咲、純真な相撲道 星や番付より「強くなることだけが目標」

荒井太郎

稀勢の里の相撲道に憧れ「強さを追求」

来場所は新三役が確実。憧れの横綱・稀勢の里(左)との対戦にも思いを馳せる 【写真は共同】

 来場所は新三役が確実だ。「やりたい方がいるんで」と今場所は実現しなかった対戦に思いを馳せる。日本中を感動の渦に巻き込んだ今年3月場所の稀勢の里の逆転優勝は、スマホの小さな画面で見入っていた。それでも憧れの人の生きざまは胸にジーンと刻み込まれた。

「男だなと思いました。あの中で気持ちだけであそこまで相撲が取れる。自分もそういう気持ちで取りたい」

 劇的な優勝と引き換えに大きな代償を払った稀勢の里は、翌5月場所の強行出場があだとなって途中休場。場所後、復活に向けた関取衆との最初の稽古相手として白羽の矢を立てたのが、当時まだ新入幕の阿武咲だった。横綱自ら阿武松部屋に出向き、たっぷりと心地よい汗を流した。

「初心に帰ろうと思って」と手負いの横綱。目をギラギラさせながら格上相手に向かっていく姿を自身の若いころと重ね合わせて見ているのかもしれない。

 大記録更新中の若武者は次の目標を報道陣に問われても「ないです」とキッパリ。「番付とかは関係ない。強くなることだけが目標。強さをしっかり追求していきたい」と言い切る。ただひたすら強さを追い求めるその純真な思いを、憧れの人はあますことなく受け止めてくれるだろう。平常心とぶれない押し相撲を身につけつつある21歳にとって、真摯な相撲道のぶつかり合いは、勝敗以上の大きな意味をもたらしそうだ。

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著者プロフィール

1967年東京都生まれ。早稲田大学卒業後、百貨店勤務を経てフリーライターに転身。相撲ジャーナリストとして専門誌に寄稿、連載。およびテレビ出演、コメント提供多数。著書に『歴史ポケットスポーツ新聞 相撲』『歴史ポケットスポーツ新聞 プロレス』『東京六大学野球史』『大相撲事件史』『大相撲あるある』など。『大相撲八百長批判を嗤う』では著者の玉木正之氏と対談。雑誌『相撲ファン』で監修を務める。

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