ドジャースを支える日本人広報の夢 「日本とアメリカの懸け橋になれたら」

鈴木良枝

ロバーツ監督(背番号30)と肩を組む杉浦氏。選手、スタッフからの信頼も厚い 【Photo by Jon SooHoo/(C)Los Angeles Dodgers.LLC 2016】

 ナショナル・リーグ西地区を5連覇したロサンゼルス・ドジャース。そのチームを支えるスタッフの中に若き日本人がいる。「Public Relations(球団広報)」の杉浦大輔さんだ。

 球団広報は選手や監督とメディアをつなぐ役割を担っている。日本選手には日本のメディアがついており、日本向けの取材を受ける。米国メディアの取材とは別にインタビューも行うため、かつての松井秀喜のように専属広報を付けていた選手もいた。

 現在ドジャースに在籍する前田健太、ダルビッシュ有の両投手とも、通常であれば1週間のうちに登板後の取材とブルペンセッション後の取材が予定されていて、2人の通訳と連携しながら、それをコントロールするのも広報の仕事だ。

 現在25歳の杉浦さんは寿司レストランを経営する日本人の両親のもと、ロサンゼルスで生まれた。彼の父親は野茂英雄投手の登板日には、よく球場で応援しており、本人いわく「生まれた時からドジャースファン」だという。

 自身は野球の経験はなく、5歳から始めたバスケットボールの選手だった。高校2年の時、小柄な体型とけがもあり、選手を断念。将来の進路を考えた時、やはりスポーツに関わる仕事がしたいと、ニューヨーク州のシラキュース大に進学。そこでスポーツマネージメントを学んだ。同時に日本語の勉強も怠らなかった。両親が日本人と言っても普段の生活では英語を使う機会のほうが圧倒的に多い。家では日本語で話しかけられても、返事は英語で返すというのも普通のこと。そこで意識的に日本の漫画を読んだり、映画を見たり、大学で日本語を専攻したりと、流暢に日本語を使いこなせる努力も続けた。それは同時に日本的な振る舞いや日本文化を身につけることにもつながった。

 大学時代にはバスケットボールのセミプロチームで1年程オーナーのアシスタント業務などのインターンを経験。2014年3月に縁あってドジャースの広報でインターンとなった。MLBの球団スタッフの仕事は人気が高く、インターンの採用も狭き門で、名門大を出ていてもなかなかなれない職業だ。その年の11月、インターンが終了するタイミングで広報スタッフに空きが出た。インターンでの働きが認められ、正式に採用されることになった。縁とタイミングも彼を後押しした。

「本当にラッキーだった」

 そう杉浦さんは振り返る。

選手を観察し、気を配って対応

 筆者が最初に会ったのは15年。彼が1年目の夏で、流暢な日本語が印象的だった。取材でドジャー・スタジアムを訪れた際、チームがオフにも関わらず、スタジアムをくまなく案内してくれ、グラウンド内で撮影もさせてくれた。その時はちょうど日本人選手が在籍していなかったので、「いつか来てくれたらいいなぁ」と話していたが、その年のオフに前田投手の入団によって、杉浦さんの活躍の場が一気に増えた。

 広報の仕事は多岐に渡る。記者会見やインタビューのセッティング、情報リリースなどメディアへの対応、SNSでの情報発信、イベント対応、毎試合更新される『GAME NOTE(メディア向けの試合メモ)』の作成もインターン時代からの仕事だ。シーズン中の休みはほとんどない。

 3年目の今季は遠征にも帯同。選手が試合でベストなパフォーマンスを発揮できるように、常に状態や表情を見て負担にならないように気を配る。調子を落として苦しんでいる選手や若手選手は特に注意して観察し、対応するように心がけている。

「シーズン中は何が起こるか本当に分からないので、いろいろな状況を頭に入れて判断する力も求められる。選手のトレードやけがに備えてメディアにどう伝えるか、選手がどう反応するかもきちんと見てないといけないので気は抜けない」と苦労も多い。

 しなし自らが望んで得た仕事。選手との信頼関係を築き、一緒に戦っている醍醐味を感じられるなどやりがいも多い。

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著者プロフィール

サンフランシスコ在住。テレビ局勤務。スポーツリポーター、AP、コーディネーター。高校野球の監督だった父親の影響で高校・大学では野球部のマネージャーを務める。大学時代よりプロ野球やMLB中継に携わる。テレビ局のスポーツ局での勤務を経て、その後拠点を米国に移す。現在はサンフランシスコ・ジャイアンツやサンフランシスコ49ersなどスポーツの取材を中心に行うほか、コーディネーターとして幅広くテレビ番組の制作にも関わっている。

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