A代表に必要な個の力、選手発掘の重要性 2年半の内山篤体制を振り返る<後編>

川端暁彦

選手の発掘と判断能力を養うことが重要

内山氏は高さや速さのある選手の発掘、サッカー選手としての判断能力を養うことの両方をやるべきと主張 【スポーツナビ】

――持っている素材を発掘できていないということですか?

 そうですね。これに関しては高さのところもそうです。高さの部分は意識して選んできて、実際にアジアでは高さでわれわれが勝っていたでしょう?

――大型選手の発掘と起用には今までになく意欲的な代表でした。

 得点の3割はセットプレーから生まれるわけですから。そこで決まればラクですよ(笑)。逆もまた然りですが。大人の年代になってくるU−19、U−20くらいでの高さ不足はもうごまかせないんです。たとえば、ヘディングで競れないサイドバック(SB)がいれば、そこは確実に狙われます。やはり下の年代から、ちょっと我慢してでも、サイズのある選手を起用していかないといけないと思います。

――7月にカンボジアで行われたAFC U−23選手権予選に出場したチームはさらに大型化していましたね。

 世界大会であらためて必要性を感じましたから。国際経験の少ない大型選手を何人か、先のことを考えて呼びました。東京五輪を考えても、そこは絶対に必要だと思いましたから。

 こういう起用は下の年代でも、よりやっていくべきでしょう。指導者が教えられない高さや速さのある選手を発掘していくことと、サッカー選手としての判断能力を養うこと。どちらかだけではなく、両方をやっていかないといけないと思います。

感情のコントロールを覚えた堂安律

内山氏が14歳から見てきた堂安。感情のコントロールを覚え、判断の「質」を向上させた 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――やはり「判断」ですか。

 日本でうまい選手となると、ドリブルの(うまい)選手になってしまうところがありますよね。「小さいうちはドリブル“だけ”やっていればいい」みたいな指導もありますが、パスもできるドリブラーのほうが怖いに決まっていますよね。

――堂安選手はそのバランスが良くなって活躍した選手ですよね。

 14歳で初めて見たときから、堂安の特長自体は変わりません。教えられないモノを持っていた。その上で少し感情のコントロールが利くようになりました。「自分がやるんだ」だけではなく、周りを使えて自分を生かせるようになりました。あの強い感情がなくなったら堂安ではないのですが、感情が判断を上回ってしまうと、良いプレーはできなくなります。

 本人とは小さいときから何回も話してきましたが、経験を積みながら確実に整理されてきたと思います。実際、U−20W杯でのプレーぶりは14歳から彼を見てきた中でもベストパフォーマンスでした。

――大舞台で輝ける選手であることを証明しました。

 そういう素材を持っている選手です。井手口陽介(ガンバ大阪)もそうでしたね。持っているモノはあったけれど、少し感情の部分が出てしまうところがあった。でも、ちゃんとよくなっていきましたから。実際に上のカテゴリーで活躍した選手を思い出しても、そういうところのある選手はやっぱり多いですよ。

――内山さんもヤンチャだったんですか?

 間違いないですね(笑)。でも、そういう選手がサッカーを通じて成長していくんですよ。ジュビロの黄金時代のメンバーもみんなそうですよ。むしろヤンチャしかいない(笑)。でも、そういう成長があることを見てきているので、今の選手たちくらいのヤンチャならね。中山雄太(柏レイソル)みたいなしっかり者の選手も同時にいましたしね。

久保に見る、ドリブルとパスを両方持つ大切さ

ドリブルができて、パスもシュートもある。さらに、判断する力も併せ持っていることが久保の非凡なところだ 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――ドリブルとパスを両方持つことの大切さは、久保建英選手を見ていても感じます。

(久保は)判断する力を持っているから、相手の状況に応じてプレーを変えられるんですよね。彼をこの代表に呼ぼうと直接思ったのは、昨年3月のサニックス杯国際ユース大会でした(久保はU−17代表の一員として出場)。韓国高校選抜との試合でガツガツ当たりに来られる中でも、判断よくプレーしていて点も取っていた。これならば(上のカテゴリーでもやれる)と思いました。

――足りないところには少し目をつぶっての起用でしたよね。

 実際、守備の要求はしていません。いきなりU−20に来て、「ウチの守備のやり方はこうだからやり切れ」という話を言ってしまうと、彼も人間ですからそこをとにかく一生所懸命にやろうとしますよね。でも、そうすると彼の良さも消えてしまっていたと思います。

 もちろん、彼はサッカーを知っているので、本当に守備が必要なときはやります。ただ、「全部やれ」ではつぶれてしまう。いずれ肉体的なところが成長してきたとき、自然と守備の部分もやりながら攻撃の良さも出せるようになっていくと思います。

素晴らしい素材は、「絶対に日本のどこかにいる」

世界大会を終えて痛感したことを、内山氏は多くの人たちに伝えていきたいという 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

――U−20代表では、それもあってのスーパーサブ起用ですよね。

 サッカーを分かっていますから、こちらが投入する前にポイントを言うとスッと理解してくれます。南アフリカ戦(U−20W杯の初戦)で途中出場して、いきなりファーストタッチのスルーパスから決定機を作ったシーンなんかは典型ですよ。ディフェンスのチェックを受けないところを探すのもうまいし、ボールを受けてのターンもうまい。右向きにも左向きにもストレスなく回れて、それを相手を見ながらやります。ターンだけを独立してやるのではなく一連の動作の中でやれるので、途中で判断も変えられる。

――そしてシュートもあります。

 ミートもいいし、ちょっとタイミングを外すようなシュートもありますよね。落ち着いているし、非凡です。

 でも、ですよ。決して久保だけがそういう素材を持って生まれてきているわけではないとも思うんですよ。絶対に日本のどこかにいるんだと思います。

――見つかっていないか、つぶれているか……。

 上に行けば行くほど、(判断と精度の)両方できることが求められる。もちろん、パスだけでもダメです。判断よくプレーを選べて、なおかつ精度も高い選手を育てていかないといけないし、そもそも教えられないモノを持っている選手をもっと見つけないといけない。世界大会を終えて、あらためてその重要性を痛感していますし、そのことを伝えていきたいと思っています。

内山篤(うちやま・あつし)

【スポーツナビ】

 1959年6月29日生まれ、静岡県出身。現役時代はMFとして活躍し、1987−88シーズンにはヤマハ発動機(現ジュビロ磐田)の日本サッカーリーグ初制覇に貢献した。

 現役引退後は磐田でコーチや監督を務め、2013年からは日本代表のアンダーカテゴリの代表コーチや監督を歴任。15年にU−18日本代表監督に就任すると、16年にU−19アジア選手権初優勝を成し遂げ、日本を5大会ぶりのU−20W杯出場に導いた。

2/2ページ

著者プロフィール

1979年8月7日生まれ。大分県中津市出身。フリーライターとして取材活動を始め、2004年10月に創刊したサッカー専門新聞『エル・ゴラッソ』の創刊事業に参画。創刊後は同紙の記者、編集者として活動し、2010年からは3年にわたって編集長を務めた。2013年8月からフリーランスとしての活動を再開。古巣の『エル・ゴラッソ』をはじめ、『スポーツナビ』『サッカーキング』『フットボリスタ』『サッカークリニック』『GOAL』など各種媒体にライターとして寄稿するほか、フリーの編集者としての活動も行っている。近著に『2050年W杯 日本代表優勝プラン』(ソル・メディア)がある

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント