女子ラグビー日本代表がW杯で得たもの 「タックルすら入れない」衝撃の敗戦も

斉藤健仁

最終戦に快勝し、W杯で15年ぶりの勝利

アイルランド戦でトライを奪ったFB清水。相手DFを混乱させる素早い攻撃が効果的だった 【Photo by David Rogers/Getty Images】

 予選プール3戦目、4トライ以上挙げて勝てば、わずかながらベスト8進出の可能性があったオーストラリア戦(15対29)、9位〜12位決定トーナメント初戦のイタリア戦(0対22)も、アイルランド戦と似たような展開に陥り、競り負けた。15年ぶりのW杯出場だったため、当然、過去にW杯を経験した選手はおらず、しかも先発の平均年齢21歳の大学生中心のメンバーでは、経験の差を埋めることは難しかった。

 最終戦、11位決定戦は同じアジア勢の香港戦となった。「真ん中にポイントを作って左右に蹴り分けた」と大会で10番を背負い続けたSO山本実(日体大3年)のキックも冴えて、「相手の方がボール保持率が高かったが、アタックでもディフェンスでもゲームをコントロールできたので危なげなく戦えた」と有水HCが高く評価したとおり、44対5で快勝。W杯で15年ぶりとなる3勝目を挙げて、確かな足跡を残した。

女子は7人制が中心で、15人制の試合が少ない現状

帰国後の空港で旗を掲げる有水剛志HCと齊藤聖奈キャプテン 【斉藤健仁】

 若い選手が中心だったものの2戦目以降は十分に戦えていたことは、有水HCが「セブンズアカデミーなど、育成をしっかりやってきたことも影響している」と言うとおり、2015年のオリンピックから7人制ラグビーが正式種目となったことが、女子ラグビー全体の底上げに一役買っていることは間違いない。

 ただ日本の女子ラグビーがセブンズを中心として回っており、「東京五輪も次回のW杯も出たい」と思っている選手が多く、サクラフィフティーン以外でW杯までの1年間に15人制の試合を経験したのは片手に満たないのが現実だ。

 指揮官が「選手の本音として、ベスト8は夢物語ではないと思っている」と言うとおり、個々の鍛錬や15人制の試合を増やすことだけでなく、代表としてもカナダ、アメリカ、オーストラリアとの定期戦などを始めることができれば、その目標は手が届くところにあると言っていいだろう。

 また今回のサクラフィフティーンの奮闘によって、7人制を中心にプレーしていた若い選手にも「私もやってみたい!」と思わせたことにも成功したはずだ。「15人制に絡んでいない高校生たちは15人制がよくわからない子が多かったが、そういう子が(15人制ラグビーを)現実的に考えられるようになった」(有水HC)

清水麻有「正直なところ11位で終わりたくない」

清水麻有は「次の大会はベスト8が目標ですが、それ以上に行きたい」と決意を語った 【斉藤健仁】

 若い選手が中心だったサクラフィフティーンにとって15年ぶりの世界との戦いは、少々、苦い経験となったが、実りの多い大会となったはずだ。「清水、堤といった選手は、これまで国内ではあまり大きな挫折はなかったと思いますが、今回、それに向き合って、ここからさらにレベルアップしないとW杯ベスト8レベルでは通用しないと本当にわかったと思います」(有水HC)

 司令塔のSO山本は「W杯に行かないとわからないことが多かった。いっぱいミスして結果がついてこなかったが、それを受け止めて次につなげたい」と今後も10番を背負う覚悟を決め、17歳で「ベスト15」に入り世界的選手の仲間入りを果たしたSH津久井は「次の大会でベスト8に行くために、何ができるかすごく考えるようになった」と自身の成長を確かめるかのように言った。

 そして指揮官に名指しされたWTB堤は「勝てると思っていたが、何かが足りないと思って試合をやっていました。全部に差があったけど、そのレベルでプレーできたら楽しいだろうなと思いました」、またFB清水は「正直なところ11位で終わりたくない。次の大会はベスト8が目標ですが、それ以上に行きたいと強く思いました」と初めてのW杯を振り返った。

 有水HCが率いたサクラフィフティーンの挑戦は、W杯で一区切りとなった。女子15人制ラグビーの強化体制を整えることも急務だが、今回、個々に肌で感じた世界との差と向き合いつつ、どう日々の練習で埋めていくのか。2021年のW杯でベスト8という目標を達成するためのチャレンジが始まった。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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