失意の日を経て…宇野昌磨に訪れた変化 「100点ではないから伸びていける」

松原孝臣

「満足していないのは良いこと」

変化したのは心の在り方。さまざまな失敗を経験し、試合や演技に対する自分なりのアプローチを見いだした 【坂本清】

 変化したのは心の在り方だった。

「去年の世界選手権、それだけじゃなく今シーズンも、さまざまな失敗はありました。集中しなきゃいけないと思って、集中できないときもありました。でも集中できないなら、無理に集中しなくていいんだ、集中できないなら練習だと思ってやればいいと思えるようになりました」

 次の言葉にも、心の在り方の変化は表れている。

「去年は会場の周りがまったく見えなくて、何もできなかった。でも今年は周りがよく見えた」

 世界選手権の演技は、「100パーセントです」。ただし、「100点ではありません」。例えばステップなど、体力面を考えてもっと動けるのに抑えているからだ。

「でも、100点ではないから、伸びていけると思うんです。自分の理想としているものが全然完成していないということは、自分でも全然満足していないということ。逆にそれは良いことだと思っています」

根幹にあるスケートへの思い

五輪が最終目標ではない。その先を見据えて、「できることは全部取り組みたい」と考えている 【坂本清】

 世界選手権で確かな存在感を示し、今、五輪シーズンが始まろうとしている。

 ショートではビバルディの四季協奏曲第4番『冬』、フリーは15−16シーズンにも使用した『トゥーランドット』。ただ、曲の編集をはじめ、一新したと言ってよい作りになっている。ジャンプも新たに4回転サルコウかルッツを加えること、4回転を5本にすることを考えている。その意図には「今シーズンが最終目標ではなく、もっと先のために、できることは全部取り組みたい」という思いも含まれている。

 もともとの宇野の持ち味にも成長が見られる。小柄な体をそうと感じさせない、腕のみではないダイナミックな振り。柔軟性が生むのだろう、上半身と下半身の連動と非連動を含む動きにさらに磨きがかかってきた。時に穏やかに、時に鋭く、変化しつつも客席を捉える目線とともに、空間を圧しようとしているようでもある。

 世界選手権直後、宇野は言った。

「来シーズンも、いい笑顔で終わりたいですね」

 その言葉を現実とするために平昌五輪を見据える。

 何よりも、根幹にはスケートへの思いがある。

「スケートには真剣ですから。ばかみたいに人より考えている」

 自身のスケーターとしての未来も見据え、さらなる進化を期して、シーズンを進んでいこうとしている。

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著者プロフィール

1967年、東京都生まれ。フリーライター・編集者。大学を卒業後、出版社勤務を経てフリーライターに。その後「Number」の編集に10年携わり、再びフリーに。五輪競技を中心に執筆を続け、夏季は'04年アテネ、'08年北京、'12年ロンドン、冬季は'02年ソルトレイクシティ、'06年トリノ、'10年バンクーバー、'14年ソチと現地で取材にあたる。著書に『高齢者は社会資源だ』(ハリウコミュニケーションズ)『フライングガールズ−高梨沙羅と女子ジャンプの挑戦−』(文藝春秋)など。7月に『メダリストに学ぶ 前人未到の結果を出す力』(クロスメディア・パブリッシング)を刊行。

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