“試合巧者”ぶりを示したサニブラウン ボルトの後継者に名乗りを上げられるか
試合の中で収穫と課題を見定める能力
リアクションタイムこそ0秒193と、やや出遅れはあった。しかし、スタートの前傾からスムーズに体を起こして加速を始めると、最終コーナーを抜けた段階でトップに躍り出る。ラストのストレートでジェリーム・リチャーズ(トリニダード・トバゴ)には前をいかれたものの、予選では後塵を拝したブレークらを抑えて2番目にゴール。タイムは決勝進出のメンバーの中で最も遅い20秒4台となったが、最後に流していたところを見ると、余力は残しているようだ。
「あとはラスト100。決勝になったら足を回すのもそうですけど、若干(足が)流れていたのかなと思うので、そこをうまくまとめていきたい」
準決勝前の課題だった前半100メートルに及第点を与えた上で、次の課題として後半の走りに注力していく。1つ1つ、ステップを積み重ねて、走りを完成させていっている。
サニブラウンが100メートル、200メートルの二冠を達成した今年6月の日本選手権の際、伊東浩司強化委員長は「予選、準決勝、決勝というラウンド制をすごく上手に駆け上がっていった」とコメントしていた。今回も同じように、走りの中で課題と収穫を見定め、自分の走りを仕上げていく「試合巧者」ぶりを発揮することで、日本勢として、世界選手権史上2人目の短距離種目決勝進出という快挙につながった。
ボルトよりも早い成長曲線を描く
そのボルトを上回る16歳での世界選手権初出場&準決勝進出が15年北京大会。そして今回は18歳5カ月でのファイナリスト。時間軸を合わせるならば、ボルトよりも早い成長曲線を描いていることは間違いない。
この事例だけを聞くならば、ボルトが“ラストラン”となる今大会、その“後継者”としてふさわしいのがサニブラウンなのではないかと興奮さえ覚える人もいるだろう。ただ、本人はそんなことに気を取られず、自分自身の実力を冷静に見詰める。
「タイムもタイムですし、ここからしっかり戦えるように、もう1段階上げていければいいかなと思います。先頭集団に食い込んで、メダルのラインに絡めれば」
本人も「憧れの選手」と話しているボルトと比べられ、普通なら舞い上がってしまうところもあるだろう。そして過剰な期待を自分にしてしまい、自滅する可能性もあったはず。ただ、そんな状況にも謙虚に、自分のレベルを見定めることができるのは、自身の名前の通り「(ハキームはアラビア語で)賢い」部分が垣間見える。
決勝の舞台では、男子400メートルの覇者で、二冠を目指すウェイド・バンニーキルク(南アフリカ)、食中毒による欠場から一転、救済措置で1日2本のレースをこなし決勝に上がったアイザック・マクワラ(ボツワナ)、準決勝トップで勝ち上がったアイザイア・ヤング(米国)ら、“ポスト・ボルト”を目指す選手がスタートラインに並ぶ。
その中でサニブラウンがどんな走りを見せるか。日本王者が“ボルトの後継者”へと名乗りを上げられるのか。決勝の戦いから目が離せない。
(取材・文:尾柴広紀/スポーツナビ)