全日本男子の新セッター、藤井直伸の武器 「ありえない」トスワークで世界へ挑戦

田中夕子

アジア選手権でつかんだ自信

藤井は東レのチームメートでもある李博(左)とのコンビを「生命線」と語る 【写真:アフロスポーツ】

 アジア選手権の準々決勝、オーストラリア戦でもこんな場面があった。

 オーストラリアとはこの2カ月で既に5回目の対戦。藤井だけでなく多くの選手が「リーグ戦のように何度も対戦しているので、お互いの手の内も分かり切っている」と言うように、日本の攻撃パターンを熟知している相手でもある。当然ながらミドルに対する警戒も強く、サーブを前に打ってミドルの助走コースを潰したり、ブロック枚数を増やすなど対策を立ててきたが、それでも藤井はミドルを使う。2本続けてブロックにスパイクコースを塞がれ、3本目はコンビミスで失点を喫した直後も、また李に上げる。さすがに次はないだろう、と手薄になったディフェンスの上をいくトスワーク。メーンリベロを欠く相手とはいえ、終始オーストラリアを寄せ付けず、会心のストレート勝ちで準決勝進出を決めた。

「李さんとのコンビは僕にとっては生命線だし、オーストラリアは戦術的な変化がほとんどないんです。あれだけ対戦しているのに、ブロックもそこまで変えてこない。あれ? こうくる? みたいな驚きがないから、僕としてはあまり面白くないですね(笑)」

 相手との駆け引きを楽しみながら、自分の武器を磨く。実戦を重ねることで得られた自信が、また一段階の進化と成長につながった。

課題は山積みだが、チャレンジできることが大きな喜び

まだまだ課題は多いが、藤井(21番)にとってはチャレンジできることが喜びであり財産だ 【提供:坂本清】

 アジア選手権は2大会連続9度目の優勝を果たし、自身もベストセッターを受賞。申し分のない結果を残したが、まだまだ克服すべき課題も多い。

 終盤の競り合いが続く場面でややトスが短くなったり、低くなったりブレが生じる。レフトに上げるトスの質も改善が必要だ。グループ2で戦ったワールドリーグや、ベストメンバーを欠くチームが多かったアジア選手権と比べて、9月に開幕するワールドグランドチャンピオンズカップや来年の世界選手権はランキングでも実績でも日本を上回る世界の強豪が顔をそろえる中、どれだけ藤井のトスワークが通用するのかは未知数でもある。

 だがそんな山積みの課題も、全国大会とは程遠かった高校時代や、なかなかレギュラーになることすらできなかった大学時代には想像すらできなかったものばかり。高い壁を越えるべく、チャレンジすることこそが今の藤井にとっては大きな喜びであり、これからにつながる財産であるのは間違いない。だからこそ、アジア選手権を制した後、全日本男子の中垣内祐一監督も「他国も日本もこの大会に照準を合わせていたわけではなかったが、それでも優勝は優勝。最後を藤井で決めることができてよかった」と成果として藤井の名を口にした。

 まさに今が、成長の時。ベストセッターのトロフィーを手に、藤井が言った。
「評価していただけたのはありがたいですけれど、自分はまだまだ。『これから頑張って下さい賞』だと思うし、これまで積み重ねてきたものがあったからこういう舞台に立てた。これからも1日1日を大切に、しっかり積み上げていきたいです」

 雑草魂を胸に。「世界」を見据えた、挑戦が始まった。

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著者プロフィール

田中夕子

神奈川県生まれ。神奈川新聞運動部でのアルバイトを経て、『月刊トレーニングジャーナル』編集部勤務。2004年にフリーとなり、バレーボール、水泳、フェンシング、レスリングなど五輪競技を取材。共著に『海と、がれきと、ボールと、絆』(講談社)。『SAORI』(日本文化出版)、『夢を泳ぐ』(徳間書店)、『絆があれば何度でもやり直せる』(カンゼン)など、女子アスリートの著書や、前橋育英高校野球部・荒井直樹監督の『当たり前の積み重ねが本物になる』では構成を担当

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