鈴木彩香、W杯を「人生最高の瞬間に」 新境地を切り開く女子ラグビーの“象徴”

斉藤健仁

初挑戦のFLは「動いたら動いただけボールが持てるので楽しい」

7人制ではリオ五輪に出場。海外勢との対戦経験は豊富だ 【写真:中西祐介/アフロスポーツ】

 本人が「本当にペーペーなので、ほとんどが年下ですが教えてもらっています!」と言うとおり、15人制のスクラムやラインアウトのジャンパーは怒られながらも一から学び、「ケガをしてから常に必死で余裕はありません! みんなと切磋琢磨していった方が良いチームになれる」と食らいついていった。ただ、6月のアイルランド遠征では3試合すべてにFLとして出場し、FWとしても十分に代表レベルで戦えることを証明する。

「FLとしての初めての試合が、海外のチームとの対戦だったので緊張しましたね。ただ、試合でプレーすると『こうなんだ』と思えるようになった。FLは、試合中、サボることができず、動いたら動いただけボールが持てるので楽しい! (相手のボールを奪う)ジャッカルにもチャレンジしています。ボールが取れたり、取れなかったり、テクニック的にこのタイミングではいける、いけないというもわかりました」(彩香)

 また、あらためて15人制ラグビーの魅力を再認識している日々でもある。
「セブンズは身体能力に頼ることがすごく大きいですが、15人制は、より一人では何もできないことを痛感しています。一人ひとりが100%以上のことができるか、そして行動、言動でチームの結果が変わってくる。みんなと成長しながら、一つにまとまっていくのがいいですね!」

加藤慶子「彩香がいると安心します」

笑顔でW杯に臨む鈴木彩香(左)と加藤慶子 【斉藤健仁】

 ただ、残念なことが一つあるという。リオ五輪と違い、彩香と小学校時代から一緒に研鑽を積んできた、WTB山口真理恵がいない。今春、結婚を期に一線から退いた。
 そのため彩香は「自分にとっての一番の理解者で、一緒に日本の女子ラグビーとともに成長していった選手が、この場にいないのは寂しい」と言いつつも、「ずっと戦ってきた、(一つ学年は上だが)同期みたいな(CTB加藤)慶子ちゃんがいるのはうれしいし、若い選手とプレーするのは新鮮です」と前を向いている。

 リオ五輪では、バックアップメンバーとなり遠征メンバーの中で唯一、出場できなかったCTB加藤は「本当にうそのようで、やっとW杯まで来た。前々回のW杯アジア予選は彩香がSOで私がインサイドCTBでしたね。今は、彩香はFWになっちゃいましたが(苦笑)、すごく嗅覚がよくて、今、投げていいよとかスモールトークをしてくれるので、やりやすい。彩香がいると安心します!」と10年来、ともに女子ラグビー界を支えてきた彩香に絶大な信頼を置いている。

 また若手選手の多くは、ユース世代からセブンズも含めて代表に選ばれて、世界と戦っている選手が多いものの、「試合をコントロールするのはベテランの役目」と彩香は自分のベテランとしての立場もわきまえている。

対戦相手はいずれも格上。歴史的勝利なるか

「15人制ならではの魅力はあるので、それをわかってもらうには結果を残すしかない」 【斉藤健仁】

「男子より先にベスト8」という目標を掲げる、世界ランキング14位のサクラフィフティーンは、8月1日にアイルランドに向かって旅立ち、予選プールでは、9日にフランス(同4位)、13日にはホームのアイルランド(同5位)、17日にオーストラリア(同6位)と対戦する(22、26日に順位決定戦を戦う)。予選プールでは、すべて格上との対戦となり、どこに勝利しても歴史的な金星となろう。

 当初は「45歳までプレーしたい」と思っていたという彩香はコーチもやりたいと思っているため、「1年1年が勝負だけど、自分の中では東京五輪まではプレーしたい」。ただ「オリンピックでブームみたいなものが来て女子ラグビー人口も増えたけど、15人制はやっぱり15人制で切り開いていかないといけない。あまり、今回注目されていないですが、15人制ならではの魅力はあるので、それをわかってもらうには結果を残すしかない」と意気込んでいる。

 4大会ぶりの出場となったサクラフィフティーンにとって、今回のW杯は、初めて男子と同じジャージーで臨む大会となる。10年以上、女子日本代表として体を張り続けている彩香にとっても初めての15人制W杯である。新人FLとして新境地を開きつつあるベテラン“ラガール”は、「日本ラグビーの歴史を変えて、リオと違って、人生最高の瞬間にしたい!」と、その大きな瞳を輝かせた。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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