ドルトCEOに聞くJリーグの進むべき道 「本物であることが最高のマーケティング」
破産寸前の危機からドルトムントを再建し、欧州トップレベルにまで成長させたヴァツケCEOに話を聞いた 【スポーツナビ】
アジアサッカーの近代史において、Jリーグのビジネス面における貢献は決して小さくはないが、競技に対する国民の“情熱”という面では、他のアジア諸国の後塵を拝する状況になりつつある。そのような現状を踏まえ、スタートから四半世紀が経過したJリーグが今後、さらなる成長路線を実現していくために何が必要なのか、あらためて考えるタイミングに来ていると言える。
世界一の集客力を誇るドイツ・ブンデスリーガにおいて、トップに君臨するドルトムント。12年前、破産寸前の危機からクラブを再建し、欧州トップレベルにまで成長させたCEOのハンス・ヨアヒム・ヴァツケ氏にJリーグの進むべき道について聞いた。(取材日:2017年7月16日)
日本のドルトムントファンの多さに驚いた
浦和との試合には多くのドルトムントファンが駆け付けた 【(C)J.LEAGUE】
日本が担う役割は大きいです。10億以上の人口を抱える中国が重要なのはもちろんですが、日本には長いサッカーの文化があります。そこをむげにしてはなりません。われわれにとっても、香川真司というのはひとつの大きなテーマです。
日本に来日するのは今回で2回目ですが、いつも素晴らしい気分になります。昨日の試合(浦和レッズvs.ドルトムント)で、日本にもわれわれのファンがたくさんいることが分かりました。どれくらいの割合の人が、日本のドルトムントファンだったか正確には分かりませんが、1万5000人は下らないでしょう。それは非常に印象的な光景でした。
――半分以上がドルトムントファンだったのではないですか?
われわれとしては謙虚な数字を出しただけです(笑)。しかし、本当に驚きました。あれだけのファンを目にすることができたのはうれしかったですし、日本が好きになりましたよ。
――現在、Jリーグは国際化を進めています。海外展開の際、リーグは各クラブにどんな支援をすべきでしょうか?
リーグは海外展開のノウハウを伝授できます。われわれのような規模の大きなクラブは自分たちでできますので必要ありませんが、例えばアイントラハト・フランクフルト、あるいは中国や日本、米国に海外ツアーをしたいと考えている、もっと小さなクラブには必要です。ブンデスリーガはドイツのクラブを海外に派遣することを奨励していますので、必要なサポート、例えばマネジメントや現地でどう展開するか、あるいはコストの援助、といったことをを行っています。
本物であることが最高のマーケティング
「本物であることが最高のマーケティング」とヴァツケCEO(左)は語る 【Getty Images】
日本の今後の課題は、日本サッカーの文化的価値をどのように持続的な成長に昇華させ、具体的な施策とともに推進していくことではないか。JリーグはDAZNとの長期放映権契約により、10年間で2100億円の放映権収入を手にすることとなった。重要なのは、この資金をどのようにJリーグ、あるいは日本のスポーツ発展につなげていくかだ。
そのためには、リーグとクラブが目指すべき方向性を共有し、切磋琢磨(せっさたくま)しながら活動の価値を高めていくことが必要となる。その1つの施策として、Jリーグでは現在、デジタルマーケティング領域におけるクラブ支援を検討している。
――Jリーグはデジタルマーケティングでもクラブを支援しようと考えています。ドイツではデジタル戦略に関して、リーグがクラブを支援していますか?
実際のところ、ほとんどないですね。1部のクラブはすでに十分な規模にありますので、自前でできます。しかし、DFL(ドイツサッカーリーグ機構)は1部だけでなく2部も対象ですから、たとえば運営面で助けが必要な2部のクラブはそうした助けが必要でしょう。
――ドルトムントは近年、マーケティング戦略で多くのファンを獲得しています。デジタルマーケティングではどのようなところに注力していますか?
最高のマーケティングというのは、人々がマーケティングだと気付かないようなマーケティングです。世間に対してありのままの姿を見せる。本物、オーセンティックであり続ける、それが重要です。言ってしまえば、マーケティングはどうでもいいのです。大事なのは競技面、サッカーです。ひどいサッカーをしていたら、良いマーケティングも意味がなくなってしまいます。サッカーで成功を収めること、本物であること。本物であることにお金はかかりませんから。それが最高のマーケティングです。