イチローの電撃トレードから5年 交換相手が振り返るその日の出来事

丹羽政善

イチローとの交換だからニュースに

イチローとのトレードの交換相手の一人、ファーカー(右)は今季序盤はレイズでプレーした 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

「その後だよ、監督から呼ばれたのは」

 その時、どう告げられたかと聞くとファーカーは笑いながら教えてくれた。

「監督室へ行くと、まず、こう言われたんだ。『トレードされた』って」

 でも、それは知っていること。

「そう(笑)。『知っている』といったら、少し驚いていた。監督はテレビを見ていなかったかもしれない」

 それから?

「事務的なことを伝えられた。シアトルに行くのかマイナーのチームに行くのかまだ分からないから、とりあえず待機してくれって」

 ファーカーは結局、翌日になってシアトル・タコマ国際空港へ飛ぶ。マリナーズ傘下の3Aタコマに合流するよう連絡を受けた。

 それにしても実際、マイナーリーガーとはいえ、トレードをテレビで知ることはありえるのか。

 するとファーカーは、「どうだろう。ケースバイケースじゃないかな」と言ってから、続けた。

「あの時は、イチローがトレードされたから大きなニュースになった。それでメディアが先行しただけであって、普通、オレの移籍なんて誰も気にしないから、あんなケースは初めてだった(笑)」

 ファーカーはその年、ブルージェイズの2Aで開幕を迎えたものの、6月9日にアスレチックスの3Aに移籍し、同26日にヤンキースに拾われる形で2Aへ。その後、同チームの3Aに上がったところで、件のトレードを迎えている。

「あれだけ動いて、ニュースになったのは最後だけだよ」

2選手のキャリアは対照的

 それもイチローのおかげであり、しかも交換相手として注目されたのはむしろミッチェルの方ではなかったか。

「その通り」

 ただその後、2人は対照的なキャリアを歩むことになる。

 ミッチェルはトレードされた年、3Aタコマで8試合に先発し3勝2敗、防御率2.96とまずまずだったが、翌年4月、1試合に先発しただけで退団。その後メッツとマイナー契約を結んだものの、そこでも昇格できず、14年から独立リーグへ。16年を最後に記録がない。30歳を前に行き場を失った形だ。

 一方のファーカーは、翌年になってメジャーに定着すると、同年、16セーブをマーク。カットボールを武器に2014年は66試合に登板し、防御率2.66を記録した。レイズへは15年11月のトレードで移籍し、20日にレイズとの契約を解除されたが、これはニュースになった。

「いまミッチェルがどこにいるかって? ちょっと分からないなぁ」

 5年後のいま、イチローもマーリンズにいて、たった3人の選手からも大リーグの移り変わりの激しさが透ける。誰ひとりとして5年前、いまの姿を想像できなかったはずだ。

「そういえば」とファーカー。「5月の交流戦で、イチローに挨拶をしたよ」。

 意外にもイチローと言葉を交わしたのは、そのときが初めてだったそうだ。

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著者プロフィール

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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