「心が折れなくなった」樋口新葉の成長 平昌五輪へ、強化すべきは表現力

野口美恵

成長を実感「忍耐強くなってきた」

16年3月の世界ジュニアは3位。本田真凜(左)に優勝は譲ったが、ショート5位から巻き返し「心が折れなくなった」と手応えをつかんだ 【写真:Enrico Calderoni/アフロスポーツ】

 もちろんこの自信は、16年3月の世界ジュニアでも生かされることになる。前年の銅メダリストとして頂点を狙う試合。ショートはミスがあり5位発進となり、思わず「もう世界ジュニアが終わっちゃった」とうなだれたが、ここからが違った。

「部屋に帰ってから考えました。今までは『もう勝てない』と思ったら自分の中で終わりでしたが、今年の私は違う。ケガをしてもちゃんとケアをして、全日本ジュニアも優勝してこの世界ジュニアまでたどり着いたんだから。『ここで終わりじゃない』と思うことにしたんです」

 するとフリーは、途中のミスをリカバリーし、「3回転+3回転」と「ダブルアクセル+3回転」の大技2つを後半に成功させる好演技。全選手の中で技術点トップとなり、総合3位に巻き返した。優勝は本田真凜(関西大学中・高スケート部)に譲ったが、それよりも自分の成長に手応えを感じた。

「真凜に抜かされたという気持ちは少しあるけれど、そんなことを気にしてる余裕はないです。まだジュニア。この先長いので、もっと大きな大会で結果を残したいです。今季は心が折れなくなりました。少しずつ忍耐強くなってきたと思います」

 1年前よりもずっと大人びた、落ち着いた笑みを見せた。

自己ベストを20点以上も更新

17年4月の国別対抗戦ではこれまでの自己ベストを20点以上も更新。五輪シーズンに弾みをつけた 【坂本清】

 16−17シーズンは、満を持してのシニアデビュー。精神的に成長した前年とは違い、技術と表現のブラッシュアップを心掛けた。ジュニア時代は、ショートの後半にジャンプ3つを集中させていたが、1つは前半に。そのぶん表現力に気を配った。

「難しいジャンプ構成にしなくても点が取れる選手を目指して、全体を丁寧に滑りたいです。去年は手の振りとかが雑だったけれど、今年はしなやかに踊りたいです。バレエの動画やきれいな演技の選手を見て、良いところを吸収しようと思っています」

 するとシニアデビューとなるフランス杯で銅メダルを獲得し、早くも世界のトップグループ入り。16年末の全日本選手権も2年連続の2位となり、存在感を示した。初出場の世界選手権では11位となるが、4月末の国別対抗戦では伸び伸びとした演技で216.71点と自己ベストを20点以上も更新。最高の演技でシーズンを締めくくった。

「すごく波のあるシーズンだったけれど、最後に良い演技ができて自信になりました」

 今季の目標は、もちろん五輪出場。すでにジャンプ力もスピードも日本女子のトップクラスの樋口にとって、強化するべきは表現力と考え、長所を生かす選曲をした。

 ショートは多くの選手が勝負曲に使ってきた「ドン・キホーテ」。樋口のキャラクターそのものと言える躍動感あふれた滑りが期待できる。フリーはシェイ=リーン・ボーンの振付で、映画「007スカイフォール」の主題歌。少し大人びた、強い女性の色香を醸し出す演技に注目だ。

 どちらも強さとノリの良さがあり、樋口の持て余すパワーを消化できる選曲。「五輪に行きたいので、1つ1つの試合を大切に滑っていきます」と誓う。

 持ち前のスピード、ジュニアで培った精神力、そしてシニアで磨いた演技力。一歩一歩着実に、五輪へと近づいていく。

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著者プロフィール

元毎日新聞記者、スポーツライター。自らのフィギュアスケート経験と審判資格をもとに、ルールや技術に正確な記事を執筆。日本オリンピック委員会広報部ライターとして、バンクーバー五輪を取材した。「Number」、「AERA」、「World Figure Skating」などに寄稿。最新著書は、“絶対王者”羽生結弦が7年にわたって築き上げてきた究極のメソッドと試行錯誤のプロセスが綴られた『羽生結弦 王者のメソッド』(文藝春秋)。

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