サンウルブズ、“会心の勝利”の理由 NZの強豪を攻略した「バランス」

斉藤健仁

キック、キープのバランスの良さが光る

後半14分のトライを生んだ松島のキック 【斉藤健仁】

 ディフェンスが良かったことで、攻防一体のキック戦術もうまく働く。

 この試合、インプレー中に蹴った回数は28回と多く、4月に勝利したブルズ戦、5月のチーターズ戦に次ぐ多さだった。しかも28回中18回が中盤のハイパントキックだった。追う選手の個々の能力が高かったことも要因だが、課題の一つだったキックチェイスも整備され、相手にプレッシャーを与えることができた。

「(キックチェイスを)突き詰めることは大事で、実を結んだのが今回の試合だった」と福岡が言えば、フィロ・ティアティアHCも「今回はキッキングゲームの向上が見られた。コンテストキックを蹴って50/50の確率にもっていくことができた。3週間前と比べると(キックの)チェイスラインも少し向上した」と目を細めた。

 特にキック戦術がうまくはまったのが、2点差に追い上げた後半14分のトライだった。直前にFBリアン・フィルヨーンの代わりにCTB山中亮平を入れ、FBにWTBから松島、右WTBにはCTBからトゥポウが入っていた。指揮官の采配も当たったと言えよう。

 自陣15m付近からSH内田がハイパントキック。キャッチした相手にラファエレがタックルし、さらにブレイクダウン(タックル後のボール争奪戦)に頭を突っ込み、ボールがこぼれる。
 そこにFL松橋周平が体を投げ出してボールを奪取。素早く右に展開し、松島が裏へキック。相手がインゴールでキャッチしたが、トゥポウがタックルし、ファンブルしたところを山中が押さえた。

 この日の試合は、キック戦術に頼るだけでなく、ボールをキープして、パスとランで攻める姿勢も見られた。ティアティアHCが「チャンスがあればボールキープしていこうと話していて、その中でチャンスを生かしてくれた」と言えば、SH茂野海人も「いつもより、勢いがある時はしっかり継続しようとした」と振り返ったように、前半の2トライは、しっかりとボールを継続する中で生まれたトライだった。

 キック戦術だけでは相手も脅威に感じることは少なく、ボールをキープし続けるだけでは体力をいたずらに消耗してしまう。エリアを取るキックも効果的だった。やはり、ゲームは相手がいて成り立つものであり、バランスが大事で、点差や時間も考慮しつつ、相手が嫌がるプレーを選択、判断することが欠かせない。

「スクラムでは負ける気がしなかった」

後半39分にダメ押しのトライを奪ったFL徳永 【写真:築田純】

 また、この試合は、FWのセットプレーが安定したことも試合を有利に進める上では大きかった。スクラム、ラインアウトともにマイボール成功率は100%。HO日野剛志は「責任が果たせて良かった。南アフリカでの経験を生かし、しっかり組めていた」と語り、初先発の右PR具智元は「スクラムでは負ける気がしなかった」と胸を張った。またラインアウトもキャッチ回数リーグトップに輝いたブリッツを中心にしっかりと確保し、攻撃の起点となっていた。

 スタジアムのボルテージが一気に上がったのは、相手がシンビン(一時退場)で数的有利となった直後の18分。PGを決めれば逆転というシーンで、敢えてショットを狙わずにラインアウトを選択。「8人対7人となって、8人全員のスピリットが高く 自然とこういう決断となった」とブリッツが言うように、ラインアウトからモールを押し込み、最後はBK3人も加わって、ペナルティートライで26対21と逆転に成功した。

 この後は、スタジアムに駆けつけたファンの声援の後押しもあり、一気にペースをつかみ、サンウルブズが4トライを加えて48対21の快勝。戦略、戦術もうまくいったが、暑さ、我慢比べという状況の中、ホームのファンの前で「このままでは終われない」という気持ち、姿勢の部分で、相手を上回ったことが勝利した要因だったように思える。

15年W杯組は4人のみ。新たなメンバーで価値ある勝利

選手、首脳陣、ファンが最終戦の勝利に喜びを爆発させた 【写真:築田純】

 こうして、サンウルブズは、最後の試合で今季2勝目を挙げた。しかもNZ勢からの歴史的初勝利であり、3トライ以上差のボーナスポイントも初めての快挙であり、順位もレベルズをかわして17位へと上昇して2年目のシーズンを終えた。

 スーパーラグビーというタフな戦いで勝利するには、まず気持ちの部分が大事であり、さらにアタックもディフェンスも機能し、セットプレーも安定させないと勝てないということをあらためて感じさせた試合となった。また23人のメンバーを見ても、2015年ワールドカップ組は4人(田村、福岡、松島、三上)しかおらず、サンウルブズにとっても、そして日本ラグビー界にとっても大きな自信につながる白星となったはずだ。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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