球宴最大の目玉アーロン・ジャッジ、ヤンキースの若き大砲は至って謙虚

杉浦大介

三冠王も狙える射程圏内

新人王の資格を持ちながらア・リーグ三冠王への期待も高まるアーロン・ジャッジ 【写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ】

「(ジョー・ディマジオを)超えたのは名誉なことだ。前半戦は楽しくプレーできているし、この場所にいられるのは幸運。(ただ、)30本のすべてが勝利を決定づける一発だったらどんなに良かったか……」

 7月7日(現地時間)のブリュワーズ戦後、ヤンキースのアーロン・ジャッジのそんなコメントがこの選手のプレーに対する姿勢を象徴しているのだろう。

 今春から夏にかけて、ニューヨークは新たなスーパースター候補の台頭に沸いてきた。身長約201センチ、体重約116キロの大型外野手、ジャッジが前半戦は三冠王も狙えるほどの大爆発。前半戦を終えた時点で、打率3割2分9厘(ア・リーグ3位)、30本塁打(同1位)、66打点(同2位)という驚くべき数字を残してきた。

 7日のブリュワーズ戦で今季30号の本塁打を放ち、伝説ディマジオが1936年に残した29本塁打のチーム新人記録を更新。ディマジオは138試合で29本塁打だったのに対し、ジャッジは82試合で30本という驚異的なペースだ。

 オールスター前に30本塁打到達は、新人としては1987年にマーク・マグワイアが33本を打って以来史上2人目の快挙。このままいけば、2001年のイチロー以来となるMVP&新人王の同時受賞も有望に思える。

「すごい名前が引き合いに出されるようになり始めている。今季ここまで(のジャッジ)は、とてつもないことをやってのけてくれた」

 ヤンキースのジョー・ジラルディ監督ですらもそう驚嘆したが、これほどの活躍をせっかちなニューヨーカーが放っておくはずがない。宝石箱をひっくり返したような街の新たな目玉商品。今ではジャッジが打席に立つたび、ヤンキー・スタジアムを盛大な歓声が包み込むようになったのである。

ホームラン競争で前評判通りの優勝

 スポーツエンターテイメント・ビジネスであるMLBの世界で、ジャッジのこのわかり易さは魅力だ。

 最近のベースボールでは重宝されるようになった“Exit Verosity(打球の初速度)”の数値でも、ジャッジは今季メジャー最速の121.1マイル(約195キロ)をマーク。この数字のトップ1〜4位までは、すべてジャッジの打球が占めているという結果からも、その尋常ではない打球の速さが伝わってくる。

 ホームランの最長飛距離も495フィート(約151メートル)でメジャー1位と、前半戦でたたき出したパワーナンバーは規格外。例えるなら、常に破壊的なKOが期待できるボクシングのハードパンチャーのようなものか。打席からは絶対に目が離せず、紛れもなくファンをスタジアムに呼べる選手に違いない。

“All Rise(みんな立ち上がれ)”――。そんなキャッチコピーは地元でもすっかりお馴染みになった。オールスターのファン投票でもリーグ最大の得票数を獲得したことが示す通り、人気と知名度は短期間で全国区に拡大。今季はマイアミで開催されているオールスター期間中も、最大の目玉がジャッジであることは言うまでもない。

 11日にはホームランダービーに初参戦。ジャッジに加え、昨季デビュー後の51試合で20本塁打を放ったゲーリー・サンチェス(ヤンキース)、ジャッジと比較されることも多い最高級の飛ばし屋ジャンカルロ・スタントン(マーリンズ)、4月25日にメジャー昇格後の54試合で24本塁打と爆発したコディ・ベリンジャー(ドジャース)といった豪華メンバーがそろい、今年のダービーは注目のイベントになった。そんな中でもやはり大本命のパワーは際立ち、合計47発を放って圧倒的な強さで優勝。ここでも名前を売ったことで、ジャッジの名前はさらにお茶の間に浸透したことは間違いないのだろう。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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