四半世紀で様変わりした移籍市場 歴史に残るビッグディールを振り返る

片野道郎
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提供:スポナビライブ

3度のCL制覇を果たした「第2次銀河系軍団」

ペレス会長はC・ロナウド(右)やベイルらを獲得し、「第2次銀河系軍団」を構築 【Getty Images】

 イタリア、スペイン、そしてイングランドでも90年代末に起こった「移籍金バブル」は、高騰する移籍金と膨れ上がる人件費をカバーできるほどにクラブの売上高が伸びず、補強費と人件費に経営が圧迫されて危機に陥るという悪循環をもたらし、03年頃には収束することになる。それからの5〜6年間は、人々の度肝を抜くようなビッグディールとは無縁の夏が続く、移籍マーケット的には比較的静かな時代だった。

 そこに一石を投じたのはまたもフロレンティーノ・ペレスだった。デイビット・ベッカム、マイケル・オーウェンらをチームに加えた後期の「第1次銀河系軍団」が結果を残せなかったことで、ペレスは06年2月に自ら会長を辞任した。だが、3年後の09年6月、再び会長選挙に立候補して当選すると、早速クリスティアーノ・ロナウド(マンチェスター・ユナイテッド)を史上最高額を更新する9400万ユーロ(約122億円)で、カカ(ミラン)を6800万ユーロ(約88億3000万円)で獲得するという派手な補強に打って出たのだ。

 翌年ジョゼ・モウリーニョを監督に迎えてからの3年間は、指揮官の要望もあって名より実を取るタイプの補強が続いた。しかし13年にそのモウリーニョが去ると、ガレス・ベイル(トッテナム)の獲得に9100万ユーロ(約118億円)を投下、翌年もハメス・ロドリゲス(モナコ)に8000万ユーロ(約103億8000万円)を投じるなど「第2次銀河系軍団」の構築にまい進する。

 CL1回、リーガを2回制覇するだけに終わるなど結果レベルでは物足りなかった「第1次」とは異なり、この「第2次」は過去4シーズンで3度のCL制覇を果たし、文字通り世界最強チームとして君臨している。

イブラヒモビッチらの代理人は「移籍ビジネス」の先駆者

イブラヒモビッチらの代理人を務めるライオラは「移籍ビジネス」の先駆者 【写真:ロイター/アフロ】

 10年代に入ると、移籍マーケットそのものにもさらなる変化が生じてきた。最も特徴的なのは、プレーヤーのさらなる「流動化」である。そのシンボルは、アヤックスを皮切りに、ユベントス、インテル、バルセロナ、ミラン、パリ・サンジェルマン、マンUと、15年のキャリアで7つのクラブを渡り歩いた(そして最後のマンUを除くすべてにリーグ優勝をもたらした)ズラタン・イブラヒモビッチだろう。

 イブラヒモビッチの代理人ミーノ・ライオラは、自らが主導権を握って選手を繰り返し動かすことで、クラブから10億円単位のコミッションを引き出すという「移籍ビジネス」の先駆者であると同時に第一人者のひとりでもある。

 彼の「やり口」が典型的に現れたのがポグバの移籍。16歳でマンUに引き抜かれたスーパーエリートであるにもかかわらず、3年目になってもトップチームで出場機会を得られず不満を抱えていたポグバに、契約延長にサインせず満了を迎えるよう助言。ユベントスに売り込んで移籍金ゼロで獲得させる代わりに、次回の移籍時には売却益の30%をコミッションとして支払うという約束を取り付ける。そして3年後、ユーベでブレイクしたポグバを今度はマンUに売り込んで史上最高額で買い戻させ、3000万ユーロ(約38億9000万円)という巨額のコミッションを手に入れた。

 この時にはマンUからも仲介料を、そして顧客であるポグバからも手数料を稼いでおり、その総額は5000万ユーロ(約64億9000万円)近くに達している。

スーパー代理人ジョルジュ・メンデスの影響力

C・ロナウドら数多くの顧客を抱えるジョルジュ・メンデス(左端)は移籍市場に巨大な影響力を持つ 【Getty Images】

 同じように、顧客である選手を次々と移籍させ、クラブからさまざまな形でコミッションを引き出すエキスパートが、ライオラと並ぶスーパー代理人として知られるジョルジュ・メンデスだ。

 メンデスは移籍コンサルタントのような形でポルトガル、スペインからイングランド、フランス、さらにはロシアや中国まで世界中のクラブに食い込んで補強戦略を支援している。移籍の仲介料だけでなく、選手の保有権そのものを部分的に買い取ったり(それを禁じるFIFA規程は実際には有名無実化している)、ライオラ同様次回売却時のパーセンテージを設定したりという形で、移籍マーケットそのものに対して巨大な影響力を隠然と行使している。 『FOOTBALL COUNTDOWNS』で取り上げられており、5つのクラブを渡り歩き、移籍金に合計1億5000万ユーロ(約194億7000万円)が支払われたアンヘル・ディ・マリアも、メンデスの数多い顧客の1人だ。

 最近の移籍マーケットで目につくもうひとつの変化は、まだ偉大なトッププレーヤーと呼べるほどの結果を残しているわけではない20歳前後の若いタレントに、以前では考えられないほどの値札がつくこと。15年夏、マンUが19歳のアントニー・マルシアルに6000万ユーロ(約77億9000万円)という大金を支払ったことに驚かされたが、今夏は同じモナコの18歳キリアン・ムバッペをめぐって、昨夏のポグバを超える史上最高額のオファーが飛び交っている状況だ。

 果たしてムバッペに25年前のカントナと比べて100倍の価値があるのか、と尋ねられれば首をひねる以外にはないが、これもまた時代である。

※移籍金は推定で、日本円は17年7月7日現在のレートで換算。02年ユーロ導入前の金額はユーロによる参考値です

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著者プロフィール

1962年仙台市生まれ。95年から北イタリア・アレッサンドリア在住。ジャーナリスト・翻訳家として、ピッチ上の出来事にとどまらず、その背後にある社会・経済・文化にまで視野を広げて、カルチョの魅力と奥深さをディープかつ多角的に伝えている。2017年末の『それでも世界はサッカーとともに回り続ける』(河出書房新社)に続き、この6月に新刊『モダンサッカーの教科書』(レナート・バルディとの共著/ソル・メディア)が発売。

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