求められる対応力、特殊なメンタリティー 川島永嗣が語るGKの複雑さ<後編>

スポーツナビ

自分の中で答えを出したら、それ以上は成長しない

日本代表でも存在感を示している川島は、「自分で考えて良い結果が出る方、チームが良くなるという基準の中で判断している」と語る 【写真:アフロスポーツ】

――そういう臨機応変な対応だったり、葛藤がありながらも最善の手を考えて、固執せずに対応できるから信頼されるというか、監督が置いておきたい選手になるんじゃないかと思う。日本代表に選出され続けているけれど、自分自身でここが評価されて選出されていると思うところはある?

 キャリアもここまでやらせてもらってきたけれど、これだという答えはない。自分が答えを見つけたと思っても、それはおそらく「今」の答えでしかない。というのが今の自分の中の答え。自分の中で答えを出してしまったら、それ以上は成長しない。

 監督が何を求めているのかは分からないし、欧州や代表の経験はあるけれど、自分でそれを考え始めたら終わりだと思っている。1番大切なのはチームが良くなることであり、チームが勝つこと。そのために自分にできることがあると思えばやるし、自分がその基準で考えてそうじゃないと思えばやらない。

 自分の中ではすごくシンプルで、自分で考えて良い結果が出る方、チームが良くなるという基準の中で判断しているだけかな。だから誰が監督になっても変わらないと思う。

――メスでも当初は第3GKと言われていたのに、リーグ終盤にはスタメンで出ていた。言語や文化が違う中で適応できているからだと思うけれど、GKの評価は難しいよね。

 GKは複雑なポジションというか、1試合だけで判断できるポジションではない。どういうポイントで見なければいけないかというと、「その選手が長期的に見て何ができるか」だと思う。

 シーズンを通して自分が高いパフォーマンスを出すために、自分がどういう基準で毎試合をプレーしたらいいのかというのは、GK自身が毎試合の中で突き詰めていかないといけない。だからミスもあるし、良くない試合もあるけれど、長いスパンで自分に何ができるのかを考えるのが大事なポイントだと思う。

――自分が監督やコーチになったとして、どういう基準で選手を選ぶ?

「若くてポテンシャルが高い選手」か、「経験があって平均的に高いパフォーマンスが出せる選手」。それなりのレベルではなくて、平均的に高いレベルを出せるか。並では絶対に出さない。並のレベルであれば若くてポテンシャルの高い方を使う。

――若い選手を起用する場合は、ある程度の失点やミスは目をつぶる?

 そこで改善できないようならその選手も代える(笑)。欧州でもそれでダメな選手は出てこないし、それぐらい図太い選手じゃないと生き残っていけない。だからこそ、若いGKがどんどん出てくる。

 トゥールーズの正GK(アルバン・ラフォント)は18歳でミスもあるけれど、シーズンを通してみると悪いパフォーマンスではなかった。シーズンを通していいパフォーマンスをするのは簡単なことじゃない。ミスをすれば、そのあと精神的にもリカバーしないといけないしね。

――そういう精神面のリカバーはどうしている?

 年齢を重ねているからね。そんなに一喜一憂はしなくなってきているかな。

――ミスは失点をした後とか、試合の中で割り切れる?

 性格的に割り切れる方ではないけれど、高いレベルのGKを見ていると何があっても精神的なリカバーはすごく早いと思う。だから1試合悪くても次の試合では普通のパフォーマンスに戻っている。トップレベルのGKというのはそうじゃないといけないんだと思う。

情報だけに左右されないようにしている

川島は常に進化し続ける。「自分が追い求め続けないと先にはたどり着けない」 【赤坂直人/スポーツナビ】

――俺も久しぶりにGKをやろうかなと思ってきたよ(笑)。ちなみに今アナリストという仕事をしていて、パフォーマンスをデータ化して分析したり、情報の活用で選手を支えようとしている。日本代表でも海外のチームでもいいけれど、サッカーのアナリストはどんな役割の人が多い?

 今はシステムがすごいから、試合の翌日には自分のプレー集がすぐに見れてしまう。GKコーチと自分のプレーを一緒に見直したりはするね。分析やスカウティング担当の人とも、相手の特徴だったりを話すけれど。

――PKをすごく止める印象があるんだけれど、どっちに飛ぶかは事前に決めている?

 なんとなく。絶対こっちに飛ぼうとかまでは決めていない。事前に情報を入れることもあるけれど、あまり考えない。考えないというか、情報だけに左右されないようにしている。

――今後の目標は?

 そういうことは最近あまり考えなくなってきているね。とにかく1日1日を必死に(笑)。常に高みを目指したいし、自分の中で明確に決めて葛藤し続けるというのは自分に合っていないと思うから。1日1日を積み重ねて、最高のものを作っていく作業をすることが目標かな。

――目標を決めてしまうと、それ以上の伸びしろがないということかな。つらい作業だと思うけれど。

 でも自分だけではなくて、周りも変化しているし進化しているから、自分自身も常に進化していかないと。今までやってきたことで導き出した答えというのは「今日の答え」でしかないし、「明日の答え」ではないから。自分が追い求め続けないと先にはたどり着けない。

――めっちゃいい言葉だな(笑)。

 だから、今日の自分に満足しないという思いはあるかな。それを1日1日持ち続けて、1日1%ずつでもいいから成長する。

――最後の質問です。まだまだ早いと思うけれど、セカンドキャリアは考えている?

 以前の方がセカンドキャリアについては考えていたかな。辞めたらこういうことしたいなというのがあったけれど、今はあまりそういう気持ちがなくて、ここまで自由に生きてきて、この先も自由に生きていこうかなと(笑)。何にもとらわれずに進んでいきたいというのがある。

――いいねそれ。GKっぽくない発言だけれど(笑)。

 プランを立ててこういうことがやりたいと考えるのも大事だと思うけれど、それだけがすべてじゃない。自分がやりたいことにとにかく情熱を100%注ぐということが、今は大切だと思うから。今はそのうち1%でも違うものには注ぎ込みたくない。自分が求めていることとか、やりたいことだけに対して時間と情熱を注いでいきたい。

――貴重な時間をありがとうございました。これからもずっと応援しているから。

 ありがとう!

インタビュアー:千葉洋平(ちば・ようへい)

1982年生まれ。09年より独立行政法人日本スポーツ振興センターにて、フェンシングを中心にスポーツアナリストとして活動。ロンドン五輪では日本のメダル獲得に貢献、リオデジャネイロ五輪を経て、現在は東京五輪へ向けてフェンシングナショナルチームアナリスト、日本テニス協会強化・情報委員として活動している。一般社団法人日本スポーツアナリスト協会理事として、スポーツアナリストやスポーツアナリティクスの普及・啓蒙活動も行う。また、株式会社LIGHTzに参画し、Sports Data Analysis Professionalとして、AI技術開発などにも携わる。

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著者プロフィール

スポーツナビ編集部による執筆・編集・構成の記事。コラムやインタビューなどの深い読み物や、“今知りたい”スポーツの最新情報をお届けします。

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