変わるJFAのキーマン、田嶋会長を直撃 「世界基準」と「育成日本復活」を目指す

上野直彦

変わる審判委員会。世界の潮流を日本へ

JFAでは審判のレベルアップにも取り組んでいる(写真の審判はビョルン・カイペルス) 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 変革が顕著なのはユース育成の面だけではない。審判委員会の改革も大きい。

「小川佳実審判委員長たちが中心となって、(全国)9地域で審判インストラクターの専任化を進めており、地域ごとに1〜2級(審判員)をどんどん増やす作業をしています。そこにプラスして、さまざまな審判の評価の仕方も改革してくれています。

 U−20W杯で日本とベネズエラのラウンド16を吹いたのはオランダ人の審判員(ビョルン・カイペルス)でしたが、抜群にうまかった。この人は決勝も担当しましたが、UEFA(欧州サッカー連盟)のチャンピオンズリーグで笛を吹くような実力者です。われわれのサッカーのレベルも上げないと、審判のレベルも上がらない。審判だけがレベルが上がるということはありません。

 もちろん、審判がうまくコントロールし切れない試合もあるでしょう。そういうところでお互い批判し合っていても仕方がない。DAZNによってさまざまなシーンが見られる環境になってきてもいるわけですから、ジャッジに対する理解を得る活動もしていかなければならない。審判委員会では今年からJリーグの試合後、審判員がクラブとレフェリングについて話す機会を設けるなど、新たな試みを進めています。今後も前進させていきたいと思っています」

会長直轄の部署「特命室」のミッションとは!?

 表面化した大きな改革以外にも、JFAではさまざまな施策が行われている。長年問題となっているJリーグのシーズン移行もその1つ。結論を出すために議論を進めているのが「特命室」だ。どういった存在なのだろうか。

「特命室」というのは、私の直轄の部署です。いまはシーズン制の移行や、選手の移籍金、コンペンセーション(育成補償金)などを検証しています。コンペンセーションについてはヨーロッパなどとは異なる、日本独自のルールでやっているのですが、現状を検証して世界に合わせるのか。それとも日本に合ったものを作り直すのか。あるいはJリーグはJリーグで移籍金がちゃんと取れるようにしたいとか、そういった内容について話し合っています。

 それと指導者もレベルアップしないといけない。指導者がレベルアップしなければ、選手のレベルが上がることはあり得ません。日本のライセンスはAFC(アジアサッカー連盟)のそれとは互換性があるのですが、他の大陸連盟との互換性がとれていないので、UEFAでも通用するようなものにしていきたい。いずれにしろ、世界基準にするためには選手の強化だけでなく、指導者や審判、アカデミーなど、さまざまな角度から見なければなりません」

グラスルーツの意義と意味

グラスルーツ発展の鍵は女子サッカー。今井女子委員長(左)のもと、改革を進めている 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 改革の中で会長が力を入れて語ったのは「グラスルーツ」だった。ここも日本サッカーの改革の大きな柱だと会長は考えている。特に注力している分野だが、そこには大きな理由がある。

「グラスルーツの発展には、女子サッカーが鍵になると思っています。現在、今井純子女子委員長が効率的、システマティックにやってくれています。たとえば、なでしこリーグの現役選手たちにC級コーチ(ライセンス)を取ってもらおうということで、オフの時期に講習会を開催したり、クラブ単位で講習会を行ったりしています。これにより多くの女性指導者が生まれ、女子(サッカー)の発展につながっていきます。

 また、国体の女子サッカーに少年女子(U−16)を加えるべく日体協(日本体育協会)と話し合いを進めています。これによって、中学校での女子サッカー部の創設を促し、中体連のサッカー競技で女子の部ができることを期待しています。国体を変えるには5〜6年かかりますので、今始めなければということでやっています」

 女子サッカーの普及や拡大はなでしこジャパンの復活にもつながる。会長の狙いはA代表(トップ)とグラスルーツという常に全体を俯瞰したビジョンから導き出された戦略をもとにしている。

 最後に、5大会ぶりにU−20W杯に出場したU−20日本代表について、田嶋会長は「本当はもっとやらせたかった」という悔しい思いを隠さなかった。“世界の壁”を破るには、どうすれがいいのだろうか。この思いこそが、すべての改革のモチベーションになっていることは間違いない。

 世界基準を実現するためには短期的な改革と中・長期的な改革を並行して続ける必要がある。日々の強化育成を進めて、各カテゴリーの世界大会に出場し続ける。それを支えるのはJリーグのみならず、キッズやシニア、障がい者、そしてフットサルやビーチサッカーも含めてすべての基盤となるグラスルーツも欠かせない。それらが一体となって、真の日本のサッカー文化が生まれる。

 JFAは2030年までにサッカーファミリー800万人、W杯でベスト4入りという目標を掲げている。その目標を実現するための改革と挑戦を、これからも追い続けていきたい。

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著者プロフィール

兵庫県生まれ。スポーツライター。女子サッカーの長期取材を続けている。またJリーグの育成年代の取材を行っている。『Number』『ZONE』『VOICE』などで執筆。イベントやテレビ・ラジオ番組にも出演。 現在週刊ビッグコミックスピリッツで好評連載中の初のJクラブユースを描く漫画『アオアシ』では取材・原案協力。NPO団体にて女子W杯日本招致活動に務めている。Twitterアカウントは @Nao_Ueno

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