少年チームの監督をいったんお休みします スペイン暮らし、日本人指導者の独り言(20)

木村浩嗣

2チーム制は監督だけが泣く

1年間で練習が約100回、3年間で計300回。試合が1年で30試合ほどで3年間で計90試合。われながらよくやったとは思う(写真は今季の優勝時) 【木村浩嗣】

 もう1つ、2チーム制は商売にとっておいしい、という側面を忘れてはならない。全員が試合に出られるとなると、シーズン途中の脱落者が減るとともに、スクールの評判が上がる。次シーズン以降の入学者増、授業料収入増は間違いない。つまりクラブは万々歳、子供も大喜び、親も子供不足により試合に負け、文句を言う一部を除けば大部分は満足。が、監督だけが泣く。練習のオーガナイズが難しくなり、指揮する試合も週1から週2になるからだ。

 30人近くの子供が7人制サッカーのハーフコート(11人制サッカーの4分の1)に顔を輝かせてやって来る。少ないスペースで大人数を効率的に練習させるために、ペップ・グアルディオラ式のサーキットトレーニングを採り入れたことは書いた(※関連リンク参照)。が、問題は厳密に言えばスペースではなく、指導者の数である。

※リンク先は外部サイトの場合があります

「フィジカル」「技術」「戦術」の3つのエクササイズを、ズルもするしサボるしというスペインの小学校高学年にきちんと遂行させるためには、それぞれに1人ずつ最低3人の監視役がいる。どんなに綿密にメカニカルにオーガナイズされたトレーニングであっても、1人では絶対に目が届かない。子供が100%やるべきことを理解していることと、割り込みなしに列さえ作れないこととは別問題である。

 さらに、たとえきちんと練習させられたとしても、ミスの修正は誰がやればいいのか? 今季はシーズンを通して計7人のコーチに来てもらった。そのうち3人には継続的にほぼ毎日手伝ってもらってやっと「回った」。「回った」というのは少年サッカーのグラウンドではなく、ビジネスの現場、オフィスにふさわしい言葉だが、それが30人、4分の1コート、子供たちほぼ皆勤という現場での実感だった。

人心の掌握は、今季私が特に至らなかった反省点

 最後に、セビージャ市やクラブ、親たちに批判的なことばかり書いてきたが、自己反省をしなければうそであろう。

 監督として今季私が特に至らなかったのは人心の掌握である。子供たちのいさかい、小グループの誕生を阻止できなかった。2チームに分かれていても一緒に練習する仲間なんだ、という意識を植え付けることができなかった。試合出場をアメに、招集外をムチに規律を徹底させるという、いつもの手が使えなかったことで、モラルが下がって利己的なプレーや行為を防ぐことができなかった。

 親たちとはこれまで対立してきたが、うまく巻き込んで規律面の家庭内コーチ役にするべきだったかもしれないし、親との個別面談もやるべきだったかもしれないが、そこまで手が回らなかった。グアルディオラもバルセロナ監督時代は選手との距離を取っていたが、バイエルン監督時代はこれを意図的に縮めて結束力を強めたという。親と子への対処法には新しい枠組みが必要だと思う。

 が、とりあえず今は休みたい。「これはアディオス(さよなら)ではなく、アスタ・ルエゴ(また後で)だ」というスペインサッカー界の決まり文句で締めくくりたい。みなさん、約1年半にわたってご愛読ありがとうございました。

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著者プロフィール

元『月刊フットボリスタ』編集長。スペイン・セビージャ在住。1994年に渡西、2006年までサラマンカに滞在。98、99年スペインサッカー連盟公認監督ライセンス(レベル1、2)を取得し8シーズン少年チームを指導。06年8月に帰国し、海外サッカー週刊誌(当時)『footballista』編集長に就任。08年12月に再びスペインへ渡り2015年7月まで“海外在住編集長&特派員”となる。現在はフリー。セビージャ市内のサッカースクールで指導中。著書に17年2月発売の最新刊『footballista主義2』の他、『footballista主義』、訳書に『ラ・ロハ スペイン代表の秘密』『モウリーニョ vs レアル・マドリー「三年戦争」』『サッカー代理人ジョルジュ・メンデス』『シメオネ超効果』『グアルディオラ総論』(いずれもソル・メディア)がある

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