田中とダルビッシュがメジャー初対決 初夏の夜の熱戦はまさにドリームマッチ

杉浦大介

ダルビッシュは7回をわずか2安打

ヤンキース打線を相手に7回2安打10奪三振と圧巻の投球を見せたダルビッシュ 【Adam Hunger/Getty Images】

「意識はもちろんします。こっちに来てから楽しみにしていたことの一つ。いよいよその日が来るんだなという気持ちですね」

 対戦前日、田中はダルビッシュとの投げ合いをそう表現していた。その言葉からは、2008年の北京五輪、09年のワールド・ベースボール・クラシックでは同僚だった先輩への愛情とリスペクトが透けて見えてくるようだった。そして、田中からそれほど敬愛されるダルビッシュは、この日の登板でも後輩に勝るとも劣らない完成度の高いピッチングを披露した。

 7回無失点でマウンドを降りるまで、2安打、無四球、10奪三振と堂々たる数字。曲がりの大きなスライダー、常時95〜96マイル(約153〜155キロ)を計時する切れ味鋭い速球は圧巻で、敵地のファンにもため息をつかせた。

 なかでも印象的だったのは、今季打率3割2分9厘、25本塁打、57打点と打ちまくって新センセーションとなっているヤンキースの3番打者、アーロン・ジャッジとの魅力たっぷりのマッチアップだった。

 初回はカウント1ボール2ストライクから73マイル(約117キロ)のスローカーブを投げ、ジャッジはあえなく空振り三振。7回の3打席目も再び70マイル(約113キロ)、64マイル(約103キロ)のカーブで追い込むと、最後は95マイル(約153キロ)の快速球でまたも三振に切って取った。球速差を最大限に生かし、スター候補をキリキリ舞いさせた3打席(無安打2三振)。上質な球種を複数持ったダルビッシュの真骨頂を見るようだった。

「右バッターに対してはしっかりシンカーを投げてファウルを打たせて、外のスライダーとカーブで(仕留められた)。全体的には右も左もしっかり緩急をつけて、コントロールよく投げられたと思います」

 今季の防御率を3.12に下げ、試合後のダルビッシュのコメントからも満足感は少なからず感じられた。唯一残念だったのは、まだ88球だったにも関わらず7回でマウンドを降りたこと。右腕の上腕三頭筋に張りが出たため、話し合いの末に降板に至った。もっとも、これも大事をとっただけで、幸いにも今後に支障はなさそうだという。

高まる“続編”への期待

 ダルビッシュの降板後にリリーフが打たれ、試合はヤンキースが延長10回に2−1でサヨナラ勝ちを飾った。ただ、田中とダルビッシュの投げ合いに関しては、いわば“超ハイレベルのドロー”。それぞれの魅力を誇示しながら、競うようにゼロを重ねる姿にファンは高揚感を感じたに違いない。

 当の2人はともにゲーム中は互いを意識しなかったと繰り返したが、一方でダルビッシュはこんな言葉も残している。

「特にヤンキー・スタジアムで日本人2人が投げ合って、こういう試合になったというのはすごく意味があることじゃないかなと思います」

 ビッグステージでのビッグタイム・パフォーマンス――。ベースボールファンを歓喜させたこの日の息詰まる投手戦で、2人がやはりメジャーでもトップクラスの実力を持っていることを印象付けるに十分だった。そして、米国での初対戦でこれほどの名勝負になったのだから、さらに“続編”が見たいと感じた日本のファン、関係者は少なくなかったはずだ。

 特にこんな贅沢な勝負がプレーオフのような大舞台で実現すれば……。今年か、来年か、いつか――。田中とダルビッシュは見ているものにそんな幸福な夢を見させてくれた。まさに初夏の夜のドリームマッチだった。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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