攻撃的スタイルでJ1残留を目指す大宮 新監督の下、トップとユースの融合を狙う

平野貴也

クラブが狙うのは「残留争いからの脱却」

13年のJFAプレミアカップで優勝して胴上げされる伊藤ジュニアユース監督(当時) 【平野貴也】

 伊藤監督就任時のリーグ戦の成績は、13試合を終えて勝ち点7の最下位。クラブは残留ラインを勝ち点36と見積もり、残り試合で8勝5分け8敗以上(勝点29相当)の成績を目標に掲げた。伊藤監督は「残りの21試合を全部引き分けても到達できない」と話し、守備を固めて堅実性を高めるのではなく、リスクを負っても、攻撃的に戦って勝利を目指す方針を示した。前任の渋谷監督が3年前に就任した14年シーズンも同様に、攻撃的なチームを志向したが、勝ち点1及ばずに初のJ2降格を味わった。それでも同じような挑戦をするところに、伊藤監督が就任した意味がある。

 大宮は近年、大きな変革期を迎えている。

 歩みを振り返れば、05年のJ1昇格以降、毎年のように残留争いを繰り返して来た経緯がある。監督や選手を頻繁に入れ替えて進化を目指したが思うように結果が出ず、最終的には堅守速攻で粘りを見せて残留というのが定番だった。トップチームが残留争いを続ける中、クラブは将来を担う育成組織の強化に着手。県内のスカウト活動を徹底するとともに、ジュニアからユースまで、同じスタイルを採用し、ボールを保持して主導権を握る攻撃的なスタイルを築き上げた。

 アカデミーの成績は徐々に向上しており、13年以降は毎年トップチームに昇格選手を輩出している。クラブが目指すスタイルで育った選手を戦力に、堅守速攻頼みになるチームからの脱却を図っているのが、近年の大宮だ。渋谷前監督と伊藤監督は育成組織でキャリアを積んできた指導者。アカデミーで体現してきた攻撃的なサッカーを、トップチームに導入する担い手だ。

 伊藤監督は、かつて中盤の技巧派として川崎や大宮、サガン鳥栖、徳島ヴォルティスでプレーしたOBであり、現役引退後はジュニア、ジュニアユース、ユースと持ち上がるように大宮で育成組織を指導してきた。13年にジュニアユースでJFAプレミアカップを初制覇し、クラブに初めて日本一のタイトルをもたらした。また、ユースでは15年にクラブユース選手権で準優勝を果たすなど好成績を挙げた。それだけでなく、1トップがボランチに入るなど全体が目まぐるしくポジションチェンジを行いながら、連動して攻撃するサッカーで対戦相手を手玉に取り、高い評価を得た。

育成組織出身の監督、選手が活躍すれば――

大宮は前任者に続いて攻撃的サッカーを目指し、J1残留のミッションに挑む 【(C)J.LEAGUE】

 天皇杯でも見せたように、采配の力も持っている。渋谷前監督がトップとユースの融合を見せ始めたところでチームがつまずき、クラブは切り札にチームを託すことになった。天皇杯2回戦で先制点を決めたMF黒川淳史は伊藤監督の教え子だ。育成組織で将来を期待させた指導者と選手がトップチームでも活躍すれば、残留争いからの脱却を狙うクラブが描いた未来を実現することになる。

 黒川は「中学生の頃から、彰さんがやりたいサッカーを一緒にやってきた。求められているものは分かっている。まずは攻守の切り替えの早さと、ポジショニングのスピードが重要」と話した。ただ、ユース出身のMF大山啓輔やDF高山和真がリーグ戦で起用されているとはいえ、まだ育成組織出身者が主力の大半とは言えない。当面は既存戦力に戦術を浸透させながら、チームの構築と成績の向上を両立させなければならない。

 天皇杯初戦を勝った後、最終ラインと中盤で起用されているDF大屋翼は「(チームの)特徴は組織で崩すオフェンス。つながれば、すごくきれいで面白いサッカーだと思う。そのためには全体の距離感が大事で、守備とも表裏一体。今日の前半は右の味方は近いけれど、左の味方は少し遠く、攻撃のバランスが悪かった。ただ全体としては(距離感が)近いので、守備で(連動して)奪いにいって、ショートカウンターでもう1回攻撃ができたし、そういうことを意図してやる攻撃のスタイル。良い攻撃が、おのずと良い守備につながると思います」と新監督のコンセプトが少しずつ浸透していることを明かした。

 ある程度の時間がかかるのは否めないが、ゆっくりはしていられない。いち早く新監督のコンセプトと戦術を体現できるようにならなければ、攻撃的サッカーで残留争いを切り抜けることはできない。前任者に続いて攻撃的サッカーを目指し、J1残留のミッションに挑む伊藤監督の下で、大宮は描いてきた未来を切り拓こうとしている。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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