攻撃的スタイルでJ1残留を目指す大宮 新監督の下、トップとユースの融合を狙う
クラブが狙うのは「残留争いからの脱却」
13年のJFAプレミアカップで優勝して胴上げされる伊藤ジュニアユース監督(当時) 【平野貴也】
大宮は近年、大きな変革期を迎えている。
歩みを振り返れば、05年のJ1昇格以降、毎年のように残留争いを繰り返して来た経緯がある。監督や選手を頻繁に入れ替えて進化を目指したが思うように結果が出ず、最終的には堅守速攻で粘りを見せて残留というのが定番だった。トップチームが残留争いを続ける中、クラブは将来を担う育成組織の強化に着手。県内のスカウト活動を徹底するとともに、ジュニアからユースまで、同じスタイルを採用し、ボールを保持して主導権を握る攻撃的なスタイルを築き上げた。
アカデミーの成績は徐々に向上しており、13年以降は毎年トップチームに昇格選手を輩出している。クラブが目指すスタイルで育った選手を戦力に、堅守速攻頼みになるチームからの脱却を図っているのが、近年の大宮だ。渋谷前監督と伊藤監督は育成組織でキャリアを積んできた指導者。アカデミーで体現してきた攻撃的なサッカーを、トップチームに導入する担い手だ。
伊藤監督は、かつて中盤の技巧派として川崎や大宮、サガン鳥栖、徳島ヴォルティスでプレーしたOBであり、現役引退後はジュニア、ジュニアユース、ユースと持ち上がるように大宮で育成組織を指導してきた。13年にジュニアユースでJFAプレミアカップを初制覇し、クラブに初めて日本一のタイトルをもたらした。また、ユースでは15年にクラブユース選手権で準優勝を果たすなど好成績を挙げた。それだけでなく、1トップがボランチに入るなど全体が目まぐるしくポジションチェンジを行いながら、連動して攻撃するサッカーで対戦相手を手玉に取り、高い評価を得た。
育成組織出身の監督、選手が活躍すれば――
大宮は前任者に続いて攻撃的サッカーを目指し、J1残留のミッションに挑む 【(C)J.LEAGUE】
黒川は「中学生の頃から、彰さんがやりたいサッカーを一緒にやってきた。求められているものは分かっている。まずは攻守の切り替えの早さと、ポジショニングのスピードが重要」と話した。ただ、ユース出身のMF大山啓輔やDF高山和真がリーグ戦で起用されているとはいえ、まだ育成組織出身者が主力の大半とは言えない。当面は既存戦力に戦術を浸透させながら、チームの構築と成績の向上を両立させなければならない。
天皇杯初戦を勝った後、最終ラインと中盤で起用されているDF大屋翼は「(チームの)特徴は組織で崩すオフェンス。つながれば、すごくきれいで面白いサッカーだと思う。そのためには全体の距離感が大事で、守備とも表裏一体。今日の前半は右の味方は近いけれど、左の味方は少し遠く、攻撃のバランスが悪かった。ただ全体としては(距離感が)近いので、守備で(連動して)奪いにいって、ショートカウンターでもう1回攻撃ができたし、そういうことを意図してやる攻撃のスタイル。良い攻撃が、おのずと良い守備につながると思います」と新監督のコンセプトが少しずつ浸透していることを明かした。
ある程度の時間がかかるのは否めないが、ゆっくりはしていられない。いち早く新監督のコンセプトと戦術を体現できるようにならなければ、攻撃的サッカーで残留争いを切り抜けることはできない。前任者に続いて攻撃的サッカーを目指し、J1残留のミッションに挑む伊藤監督の下で、大宮は描いてきた未来を切り拓こうとしている。