大宮がアジア戦略で目指す新たなクラブ像 育成を武器に、未来を描く2人の仕掛け人

平野貴也

大宮の描くアジア戦略とは?

育成年代でアブダビに遠征するなど、大宮は独自のアジア戦略を行っている 【写真提供:大宮アルディージャ】

 Jリーグが2012年にアジア戦略室(現:国際部)を設け、積極的に東南アジアとの交流を深めるようになって久しい。各クラブがトップチームで現地の選手を獲得したり、現地でキャンプを行ったり、親善大会に参加したりと、さまざまなニュースが報じられている。アジアにおける、サッカーを通じた地域貢献や国際交流としての価値は分かりやすいが、各クラブはどのような将来を描いているのだろうか。まだ手探りというのが実情かもしれないが、現場レベルから将来像が見えてきているクラブもある。

 J1に所属する大宮アルディージャの事業本部グローバル推進担当を務める秋元利幸さんは語る。
「ここまで3年間、育成普及本部でアジアの子供たちに『笑顔を届けたい』という一心で、がむしゃらに活動していました。事業本部に異動し、今、まさにクラブ全体としてのアジア戦略を描こうとしているところです」

 その中で、国際交流をテーマに進めて来たアジア戦略と、地道に整備を続けて来た若手選手の育成が少しずつ交わり始め、新たな可能性が生まれようとしている。

秋元さんの思いが実ったアブダビ遠征

アブダビからU−17の選手らを受け入れた時の様子 【写真提供:大宮アルディージャ】

 昨年末、大宮はUAE(アラブ首長国連邦)の首長国の1つであるアブダビの5クラブから選出されたU−17選抜の選手、スタッフ、関係者の訪問を受け入れ、合同練習や練習試合を実施。そして、今年2月には、ユースチームをアブダビへ送り、アル・ワハダやアル・ジャジーラ・クラブの同年代のチームとの合同トレーニングや交流試合を行った。

 突破口を切り開いたのは、秋元さんだった。紹介してもらった方との他愛のない会話から、話が広がっていったという。「私は、アジアでの活動を担当しています。ラオスでは首相をはじめ、さまざまな要人や関係者に会うことができましたし、当国の東京五輪世代の代表強化にクラブで携わらせてもらっています。いつかの日かアルディージャならぬ『ラオディージャ』を現地で作りたいなと思って活動しています」と冗談半分、本気半分で自己紹介した。すると、経済産業省でエネルギー庁の担当をしている人物が「良いですね。私は、アブダビとの仕事をしているんですけれど、サッカーは可能性があるかもしれない! 是非お話を聞かせて下さい!」と返してきた。

アブダビ遠征実現に向け、突破口を切り開いたのは秋元さんだった 【平野貴也】

 このようなチャンスを無駄にするまいと、経済産業省から開示されている資料なども事前に確認し、後日、秋元さんはあらためて話を聞きにいった。補助金事業として両国の関係作りにサッカー交流が良いツールになるかもしれないということを聞いて、過去に仕事をしたJICE(日本国際協力センター)のサポートも得て、アブダビへ飛んだ。

 当地のスポーツ庁担当者との会談では、「アルディージャって何? と言われてしまいました。ACL(AFCチャンピオンズリーグ)に出たこともないので仕方がありませんが……。さらに(同じさいたま市を拠点とする)浦和レッズなら知っているけれどと言われてしまい……。また、われわれのここまでの活動の話をきっかけに、何かできることはないかと探ったのですが、『日本の育成システムに興味はあるけれど、どこであろうと1つのクラブと提携するつもりはない』と言われてしまいました」(秋元さん)と苦い思いを味わった。

 だが、諦めきれずに帰国後もJリーグへ相談していると、興味を示した国際部部長(当時)の山下修作さんが、すぐにアクションを起こし、JICEとともにアブダビへ飛び、国際交流プログラムの話をまとめてきたという。話を持ち込んできた大宮も事業を担当することになり、先述の交流が実現した。

1/2ページ

著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

新着記事

スポーツナビからのお知らせ

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント