歴史的チームだった今季のウォリアーズ 初戴冠のデュラントが払った多くの犠牲

杉浦大介

怪物レブロンも認める実力

第5戦の試合終了とともに熱い抱擁を交わし、お互いへのリスペクトを示したレブロン(左)とデュラント(右) 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 おかげで今季を通じ、アウェーではブーイングを浴びることも多かった。それでもデュラント本人は、「最高のチームでプレーできている。自分は正しい選択をした」と明言。迎えたファイナルでの鮮やかな活躍は、周囲の批判に対する彼なりの答えだったのだろう。個人技に走るのではなく、エゴを見せるのではなく、あくまでチームのシステムの中でプレーを続けた。そのやり方で、きら星のようなスターがそろったシリーズでも最大の輝きを放ったのだった。

「僕たちは一緒にやり遂げた。お互いを信じ続けて、犠牲を払ってきた。そして今、チャンピオンになったんだ」

 ここまでのプロセスを振り返ると、デュラントのそんな言葉は実感がこもって聴こえてくる。今後も一部からの批判の声は完全には消えないだろうが、その度に胸を張り、「今の僕はチャンピオンなんだ」と言い返すことができる。まだ28歳。無冠の重荷から解放されたスーパースコアラーの行く手に、誰よりも明るい未来が広がっている。

 このデュラントに率いられたウォリアーズは、今プレーオフを通じて16勝1敗という強さをみせた。勝率.941は01年のレイカーズの.938(15勝1敗)を上回る史上最高記録。その流麗なチームプレーと破壊力は群を抜いていた。

「これまでも多くのすごいチームと対戦してきたが、これほど武器が多いチームとの対戦は初めてかもしれない。例え良いプレーができていても、最高級のプレーをしない限り、彼らは追い上げてくるんだ」

 ファイナル中にはキャブズの大黒柱レブロン・ジェームズもそう語り、ウォリアーズの力を認めていた。「現役ベストプレーヤー」と呼ばれるレブロンは、今ファイナルでも史上初の平均トリプルダブル(平均33.6得点、12.0リバウンド、10.0アシスト)をマーク。しかし、さすがの怪物も万能ではなく、連覇を狙ったキャブズを救うことはできなかった。

予定調和感が漂っていたウォリアーズの圧勝

カリー(右)らタレントを多く抱えるウォリアーズは、「史上最高級のスーパースター軍団」と呼ばれるにふさわしいチームだった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 ウォリアーズのこれほどまでの支配力は、開幕前の時点で予想できないことではなかった。ステフィン・カリー、ドレイモンド・グリーン、クレイ・トンプソンという3大スターを軸に、過去2年連続ファイナル進出を遂げたチームが、さらにデュラントを獲得。今年のウォリアーズは「史上最高級のスーパースター軍団」と呼んでも遜色ない陣容であり、リーグ内の大方のチームとはタレント数、層の厚さが明白に違っていた。

 圧倒的な勝利には予定調和感が漂っていたことも記しておきたい。プレーオフを通じても一方的なゲームが多く、スポーツの醍醐味(だいごみ)を感じさせる接戦はごくまれだった。キャブズが12勝1敗でイースタンを勝ち抜いたことまで含め、今年のプレーオフは全般に大差のゲームばかり。ファイナル前の時点で、『スポーツ・イラストレイテッド』誌は、「スター選手の一極集中の功罪」をテーマとしたストーリーを掲載していたほどだった。

 ファイナルも大方がウォリアーズの圧勝を予想し、その通りの結果になった。特に第1(113−91)、2戦(132−113)は大差がつき、地元オークランドのファンですらも第4Q途中で席を立った。第3〜5戦は盛り上がったし、デュラント初戴冠のドラマは良かったが、ファイナルが名勝負として記憶されることはあるまい。「これだけスターをそろえていれば勝って当然」という声を完全否定するのも難しい。

歴史的チームだった今季のウォリアーズ

予定調和感が漂っていたファイナルだったが、観る価値は十分にあった 【写真:USA TODAY Sports/アフロ】

 ただ……だからと言って、デュラントとウォリアーズの栄冠をおとしめようとするような声は適切とは思えない。デュラントは自ら勝ち取ったFAの権利を行使し、より良い職場を選択しただけのこと。ウォリアーズもルールの範囲内でチーム作りを進め、驚異的なほどのタレントを抱えるに至った。

「ステフ(カリー)のような選手は見たことがない。彼は犠牲を払い、献身的で、チームメートを配慮し、他人に気を遣う。スーパースターが犠牲をいとわず、チームのことだけを気にする姿勢は素晴らしいよ」

 デュラントがそう述べた通り、空前絶後の「ビッグ4」は、特にカリー、トンプソンといったスターたち、アンドレ・イグダーラ、デビッド・ウェストといったベテランたちがさまざまな形で犠牲を払ったがゆえに機能した。

 多くのワンサイドゲームは、ケミストリーと流麗なチームプレーの結果。それが「言うは易し行うは難し」であることは、リーグの歴史上で証明されている。そんなスター軍団に観る価値があったことも、今ファイナルが1998年以降では最多の視聴者数を記録したことに示されている。

 今季のウォリアーズの強さは永く語り継がれていくだろう。マイケル・ジョーダンを擁した1996−97シーズンのシカゴ・ブルズとの戦力比較は、ファイナル中からすでに盛り上がりを見せていた。今後、20〜30年後に支配的なチームが出てきたときに、16−17シーズンのウォリアーズが再び盛んに引き合いに出されるのではないか。

 今年のチームの真価が再び測られ、感謝される日がいつかやってくる。そういった意味で、17年のファイナルは時を超えていく。現代のNBAファンは、今季に「歴史的チーム」を目撃したと言って大げさではないはずなのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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