若手投手と行う“振り返り”の時間 吉井コーチの指導スタイル(2)
客観的な日記が発端
2016年は10勝をマークして新人王を獲得した高梨。吉井コーチとの振り返りを通してさらなる飛躍を目指す 【写真は共同】
「リリーフの飯田(優也)、二保(旭)、森(唯斗)、嘉弥真(新也)の4人がチームB(いわゆるリリーフ陣2番手)でした。誰かが成功したり、失敗したりすると、いろいろ議論していました。またLINEを使って『今日は○○について考えておいてください。明日聞きます』のようなメッセージを送り、学校の先生みたいなことをやっていました。
これは自分にとって実験です。そこには自分の実体験が関係しています。実は大リーグ時代に自分自身が毎日日記をつけていたんですが、それが図らずも、いい振り返りになっていたと気づかされました。しかも人が読んでも構わないように書いたので、客観視して書いていたわけです。あくまで『自分が、自分が』ではなくて、自分のプレーについて他人事のように書いていたんです。
もちろんその時はそれが効果があったなんて理解していなかったんですけど、大学院でスポーツ心理学の先生から『吉井さん、いい振り返りが自然にできていました。選手自らそういうふうにできるんですね』と言ってくれたんです」
もし吉井コーチが大学院に通わず、スポーツ心理学の専門家と出会うことがなかったなら、その日記は単なる文章のままで終わっていたかもしれない。まさに“振り返り”の時間は、大学院でのコーチ学習によってもたらされた産物といっていいだろう。
「自分で解決する思考回路を持っているかどうか」
あくまで成長過程にある若手投手に対し、吉井コーチが必要かどうかを見極めながら取り組んでいるものだ。
「話をしてみて、ちゃんと自分で問題を解決する思考回路を持っているかどうか、ですね。そういう思考回路を持っている投手には、する必要はありません。
たとえばある投手の場合、『僕どうなっています?』ばっかりなんです。『自分はこう思っていて、こうなっていると思うんですけど、何か(アドバイスは)ありますか?』という質問ではないんです。それって自分で問題解決できていないじゃないですか。そこの思考をできるように、技術の反復練習ではないですけれども、振り返りも反復で自然にそういう思考になるようにやっているものです。
自分も昔はそうでしたが、2死満塁で2ストライクからフォークボールを投げ、浮いてホームランを打たれたとします。そこで反省するのは『低めにフォークを投げないとあかんな』で終わりじゃないですか。そして同じ場面になって、同じ失敗をするんですよ(笑)。どうやったら低めにいくのかまで考えないから、ましてやその時の精神状態がどうなったのかまで考えない。気合いが入った時に低めに投げようと思って高めにいってしまう。その時に自分の投球フォームがどうなっているのかまで普通考えないんです。
どんな投手も絶対に気合いが入ったり、力んだりするので、そうした時にどうしたら思い通りのボールが投げられるかを分かっておく必要があるんです。つまり自分がミスする時にどうなっているのかを自分自身で気づいて欲しいんです」
現在チーム状況を物語るように、チーム防御率も4点台とパ・リーグ下位に低迷。決して吉井コーチが目論むような状況にはなっていない。しかし有原、高梨、加藤を中心とする若手投手は、吉井コーチとの“振り返り”の時間を通じて着実に思考回路が変化してきているという。彼らが独り立ちできる日はそう遠くないのかもしれない。