ACLで快進撃を見せる“ドリームチーム” タイ王者、ムアントンとは何者か?

本多辰成

今シーズンは不安の残るスタートだったが……

ACL開幕前は青山が「思っていたメンバーとずいぶん違ってきてしまった」と不安をのぞかせるほどのチーム状況だったが…… 【Getty Images】

 リーグ最大の戦力をもって王者に返り咲いたムアントンだったが、今シーズンは不安が重なる幕開けとなった。

 シーズンオフに攻守の要だったタイ代表のタナブーン・ケーサラットをタイ人選手史上最高額の移籍金5千万バーツ(約1億6千万円)でチェンライ・ユナイテッドに放出すると、開幕直後にはリーグ通算100ゴールを誇ったブラジル人エースのクレイトン・シルバが中国リーグへ突然の移籍。さらに、中盤に不可欠な存在であったサーラット・ユーイェンもけがで全治5〜6カ月の長期離脱を強いられるなど、“ドリームチーム”は瓦解(がかい)を始めたかに見えた。

 15年にヴァンフォーレ甲府から加入し、ムアントンの守備を支える元日本代表の青山直晃も、ACL開幕前には「思っていたメンバーとずいぶん違ってきてしまった」と不安な表情をのぞかせたほどのチーム状況だった。しかし、ふたを開けてみればムアントンは予想を上回る地力を見せて、アジア最高峰の舞台で快進撃を見せた。

 なかでも、7月から北海道コンサドーレ札幌への加入が発表されているチャナティップは、その能力がアジアトップレベルの域にあることを証明している。傑出したアジリティーと確かな技術をベースに素早く正確な判断で繰り返されるプレーは、グループステージ3試合でAFC(アジアサッカー連盟)が認定するマン・オブ・ザ・マッチに選出されたほどだった。

 チャナティップの獲得を決断した札幌の三上大勝ゼネラルマネージャーは「(J1でも)レギュラークラスの戦力」と断言するが、Jリーグ王者を相手に見せたプレーはその発言を裏付けるものだったと言っていいだろう。

群雄割拠のタイリーグは新たなステージへ

ムアントンの躍進は進化を遂げるタイサッカーが、新しいステージに足を踏み入れたことを示している 【Getty Images】

 リオデジャネイロ五輪、ワールドカップロシア大会とアジア最終予選まで駒を進めたことからも分かるように、近年のタイの成長は目を見張るものがある。その背景にあるのが、10年代に入って始まったタイリーグの急速な発展だ。

 現在、タイリーグはT1と呼ばれる1部リーグからT4と呼ばれる4部リーグまで、計120を超えるプロクラブが存在し、タイ全土に点在する。ここ数年で地方にもサッカー専用スタジアムが次々と建設され、昨季からは育成年代のリーグ戦もスタートするなど、毎年目に見える進化を続けている。

 新時代を迎えたタイサッカー界の急先鋒(せんぽう)として台頭したブリーラムは良くも悪くも特殊な存在だった。地元の名士であるネーウィン・チッチョープ氏が巨額の私財を投じて築き上げたクラブは国内では突出した強さを誇っていたが、その状況にも変化が見られる。

 今季のタイリーグはムアントン、ブリーラムの2強に新興勢力のチェンライ・ユナイテッドを加えた3チームが緊迫した首位争いを演じ、母体企業であるタイの大手メディア・トゥルー・コーポレーションが本格的に強化に乗り出したバンコク・ユナイテッドも優勝を狙える位置に付けている(第16節終了時点で首位と勝ち点5差の5位)。ACLで旋風を巻き起こすムアントンはタイ国内で「異次元の存在」というわけではない。

 タイリーグは今、ブリーラムの1強時代に終わりを告げ、高次元で群雄割拠の時代を迎えつつある。アジアにおいては“新顔”に近い存在であるムアントンの鮮烈な登場は、進化を遂げるタイサッカーがまた新しいステージに足を踏み入れたことを示している。

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著者プロフィール

1979年生まれ。静岡県浜松市出身。出版社勤務を経て、2011年に独立。2017年までの6年間はバンコクを拠点に取材活動を行っていた。その後、日本に拠点を移してライター・編集者として活動、現在もタイを中心とするアジアでの取材活動を続けている。タイサッカー専門のウェブマガジン「フットボールタイランド」を配信中。

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