リーグ傾向に反する三河、堅守徹底の琉球 アナリスト視点でBリーグを見よう(5)

佐々木クリス

タイムアウト明けの守備を得意とする琉球

機動力が高いマクヘンリー(5番)を中心に、鉄壁の守備を武器にする琉球 【(C)B.LEAGUE】

 日本バスケ界に吹かせる琉球の風。味方にとってはほのかに潮がかおる心地よいものでも、対戦相手にとっては熱帯低気圧のような暴風となる。しかも時には琉球古典音楽と指笛にあおられ突風となり、相手をパニックに陥れる。

 まさに疾風のごとき攻守がキングスの目指すバスケットボールならば、今季は守備面でこそ大きな成果が出たシーズンだった。守備力がリーグ3位(相手の得点効率が0.869ppp/ppp=Points Per Possession)で、この基盤がなければCS進出は果たせなかった。CSでも鍵となるであろうピック&ロールに対する守備面では、スクリーンを活用するドリブラーに対してアンソニー・マクヘンリーなどの外国籍選手が外角にまで出てくることでタフなショットしか許していない。データはドリブラーが自らシュートに持ち込もうとするシュートに対して、リーグで最も強固な守備をみせていたことを示している。

 さらにもうひとつ、特筆すべきデータがある。タイムアウト明け(After Time Out=ATO)にすぐ守るシーンが今季669回起きており、この時の相手の得点効率を0.75とリーグで最も低く抑えている。リーグ全体の得点効率平均が0.893であるため、100回の攻撃あたり琉球は平均的な攻撃よりも14点も低く抑えていることになる。

 タイムアウト(TO)を要求したチームが琉球なのか、対戦相手なのかによって少し見方は変わるだろう。しかしながら、どのチームもTO間に攻守の確認と修正を行う。対戦相手はしかるべき選手にボールを渡そうと知恵を絞ったにもかかわらず、琉球の守備が対応をみせているのだから素晴らしい。

 リーグ全体でこのATOシチュエーションでの得点効率が0.833と低くなっているので、TO後の攻撃に苦戦するチームが多いということ。TOは守備側もまた準備し、体勢を整えることができる貴重な60秒間であることを琉球は実証している。ここにコーチング・スタッフのスカウティングから導いた対策や、試合中の調整力、そして選手たちの遂行能力の高さが見てとれる。

 攻撃面での特徴はポストプレーの少なさにある。攻撃の4%がポストからのシュートというのはリーグ最小。ラモント・ハミルトン以外の外国籍選手は比較的フォワードタイプであることが理由として考えられる。またその頻度の少なさから相手もあまり対策しないのだろうか、ここからの得点期待値はリーグで3番目に高い水準だ。ちなみに攻撃でポストプレーを多く使わない琉球も、ポストディフェンスではリーグ7位としっかり身体を張っている。

ハンド・オフのさらなる向上は必須

 次に挙げたいのが「ハンド・オフ」と呼ばれるプレーの多さだ。ハーフコートではピック&ロールと同様にオフェンスの流れを作り出しやすいプレーで、ディフェンスの「ズレ」も期待できる。ハンド・オフとは「Hand off pass」からきており、手渡しパスをしながらパスをする選手がスクリーンの効果も同時に果たすプレー。ここにドリブルも組み合わせたDHO(Dribble hand off)というプレーもハンド・オフのカテゴリーに含まれる。

 ハンド・オフの厄介なところはピック&ロールとは似て非なるもで、スクリーンを受ける側がボールを保持する状況と、スクリーンをかける側がボールを保持している状況で得点の脅威になる対象とエリアが変わるため守備の対策をしにくい。このことから他のチームも攻めあぐねた場合の変化球としてハンド・オフを試みることがしばしばある。琉球の場合、このハンド・オフ決定力がリーグで5位。しかし、攻撃全体のリーグ平均よりも低い数値なので、CSではもっと決定力を高めたいところだ。

 大阪エヴェッサとの最終2試合で逆転でのCS進出を決めた琉球。目を見張ったのは長らくクラブを支えてきたマクヘンリーだった。今季3本しか成功していない3Pシュートのうち、2本を1戦目に沈め、最終決戦では30分越えの出場で5アシスト、4スティール、1ブロック、1ターンオーバーと得点のみならぬオールラウンドな活躍で勝利を引き寄せた。守備では相手のピック&ロールに対応し、攻撃ではハンド・オフからスクリーン、と献身的にチームを支えていたのが印象的だ。

 今季通算スタッツ主要5部門(得点・リバウンド・アシスト・スティール・ブロック)で琉球選手のTOP10入りは、ブロックでマクヘンリーの1.1(リーグ7位)だけ。チームはCSでも総力戦を求められることであろう。今季の攻撃権回数は栃木ブレックスに次ぐ2位で5216回を数えたが、守備の回数はリーグ最多5308回を許しており、ハイペース・バスケットボールは必ずしも完成度が高いとは言えない。CSでは季節外れに暴風吹き荒れる台風となれるか。

 三河のトランジション(攻守の切り替え)頻度10.3%はリーグ最低。それに対して琉球のトランジション頻度13.8%はリーグ3位。三河は最もポストプレーを有効に活用し、琉球はポストを起点とすることを避ける。これほど対比が色濃い対戦も少ないだろう。琉球は流動的なバスケットボールでどれだけ三河を消耗させることができるか。そのためには、何よりも得点が求められる。桜木やエドワーズ、アイザック・バッツを相手にピック&ロールやハンド・オフを頻繁に仕掛け、体力的にも精神的にも疲弊させることが必須条件。さもなければ三河がその得点力の高さで寄り切ってしまうであろう。

(データ提供:B.LEAGUE、グラフィックデザイン:相河俊介)

2/2ページ

著者プロフィール

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント