マラソン「2時間切り」は実現するか トップ3選手が前人未到の領域に挑戦

永塚和志

1時間台突入の可能性は

リオデジャネイロ五輪覇者のエリウド・キプチョゲら3選手が「2時間切り」に挑戦する 【写真:ロイター/アフロ】

 フルマラソンの距離が42.195キロであることは広く認知されている。だが、なぜその距離に落ち着いたのかはそれほど知られていない。詳細は省くが、それまで大会ごとに異なっていた距離を1908年のロンドン五輪で採用されたコースの長さで統一した、それが42.195キロだった、ということのようだ。

 しかし、この42.195キロが今、絶妙かつ特別な距離となっている。世界記録が2時間2分台にまで短縮され、一部では不可能と言われてきた1時間台への突入の可能性が見えてきたからだ。

 2014年9月28日のベルリンマラソン。ケニアのデニス・キメットがフィニッシュ地点のブランデンブルク門を駆け抜けた時、時計は2時間2分57秒を表示していた。世界新記録。それまで2時間3分台をマークした選手は4人いたが、2分台という数字の衝撃は大きく、「2時間切り」の現実味が増した。

 各スポーツメーカーがこの2時間という「壁超え」を目指す中、大手のナイキ社が現地6日、イタリアで前人未踏の領域に挑戦する。舞台は、気温が安定していることや木々に囲まれて風の影響を受けにくいという条件の良さから、F1グランプリで有名なレース場「アウトドローモ・ナツィオナーレ・モンツァ」の1周2.4キロの周回コースが選ばれた(ベストの状況で挑戦させるため同7日、8日を予備日としている)。世界中から同社がメディアを招待し、当日の挑戦を見守る。

 出走するのは世界歴代3位、2時間3分5秒の記録を持つリオデジャネイロ五輪覇者のエリウド・キプチョゲ(ケニア)、ハーフマラソン世界記録(58分23秒)保持者のゼルセナイ・タデッセ(エリトリア)、マラソン2時間4分45秒の記録を持つレリサ・デシサ(エチオピア)の3人のトップランナーだ。

最高に近い走行環境を提供

ハーフマラソン世界記録保持者のゼルセナイ・タデッセは、テストランでも好走を見せた 【Getty Images】

 2時間の壁との「距離」はおよそ3分。一見、不可能ではないようにも思えるが、常人の我々にとってその3分の大きさは、十全には理解しがたい。マラソンのペース配分はすでに完璧に近いところまで来ており、2時間を切るのは難しいという研究者もいる。キメットの世界記録はキロあたりに直せば約2分54秒8。これが1時間59分59秒で走るとすれば約4秒2ペースを速める必要がある。たかが4秒、されど4秒。果たしてこれが可能なのか。興味はじわじわと増す。

 ただし、例えばキメットのタイムですらも完璧な環境や状況、状態で出たものかと言えばそうではないだろう。今回の「ブレーキング2」プロジェクトは、つまりは選手のパフォーマンスに不利に働く気温や風といった要因をできるだけ減らして選手に最高に近い走行環境を提供することで、2時間以内でのタイムを狙うというものだと言えよう。3選手の前には空気抵抗を減らす目的もあって数人のペースメーカーが配置され、しかもランナーの速いスピードを維持させるために途中でペースメーカーを入れ替えることになっている。

 この「本番」に至るまでの準備段階においても、ナイキ社は技術の粋(すい)を集めて臨む。同社が有する生物力学や運動生理学等の領域のスペシャリストたちは、マラソンという長距離レースにおいて選手が少しでもパフォーマンスを上げられるよう、トレーニング法や栄養摂取なども含めた多角的な面から研究を重ねてきた。無論、着用するシューズやウエアにも最高のプロダクトを用意する。今回使用されるシューズは同社の従来の最高クラスシューズよりも4パーセント効率的な走りができるという話である。

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著者プロフィール

茨城県生まれ、北海道育ち。英字紙「ジャパンタイムズ」元記者で、プロ野球やバスケットボール等を担当。現在はフリーランスライターとして活動。日本シリーズやWBC、バスケットボール世界選手権、NFL・スーパーボウルなどの取材経験がある

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