イチロー狂騒曲〜シアトル凱旋編〜 自身もファンも印象に残る本塁打

丹羽政善

開門を30分繰り上げて配布

3年ぶりにシアトルに凱旋したイチローは現地時間19日、「9番・ライト」で先発出場。大歓声の中、9回の打席に入ったイチローは「そうなったら、いいなあ」との思惑通りにライトへホームランを放った 【写真は共同】

 イチローのボブルヘッド人形が配られた19日(現地時間)は、朝から冷たい雨が降った。それでも早朝から多くのファンが球場の外に列を作ったことから、マリナーズは開門を30分繰り上げて10時10分から配布を始めた。

 見ていると、一度球場内に入ったファンが、次々と脇から外へ出ていく。その彼らは列の最後尾に走る。1人で複数のチケットを買い、その分の人形を貰おうとしているのである。

 その熱狂ぶりを見ていて、2001年のイチローのボブルヘッド人形をめぐっての熱狂を思いだした。

 あの年、配られたのは7月28日。前日、取材を終えて、セーフコ・フィールドを出ると、やはり雨の中、駐車場脇の広場に長い列が出来ていた。翌日はデーゲーム。そこで夜を明かそうというのである。試合を見終えたファンがその光景を見たとき、もらい損ねては大変と、そのまま最後尾に並び、さらには夜11時からのローカルニュースでその様子が紹介されると、列が伸びていった。

 そのファンらに取材をしているとき、1台の車が近くに停まった。不安げに降りてきたメガネを掛けた若いバイトの男の子は手にピザを持ち、「あの〜、ピザを注文した方はどなたですか?」と恥ずかしげに尋ねた。

「おお、こっちだ、こっち」

 マリナーズの帽子を被った男性が勢い良く手を挙げる。なんと、並びながらピザを注文したようだった。すると、周りの人が次々に言った。

「おい、ここまでピザを配達してくれるのか?」

 お金を受け取りながら、ピザの配達員は、おどおどしながらうなずく。

「はい、営業は深夜2時までなので、それまででしたら……」

「じゃあ、注文を頼む」

 今度は、ピザ屋のロゴ入りウィンドブレーカーを着た男性の周りに人だかりができた。

 話が脱線したが、翌朝、早めに球場へ。するとその列はもう、最後尾が見えなくなっていた。

 横入りをした、しないで、警察沙汰にもなったことから、それ以上の混乱を避け、マリナーズは朝9時52分に開門すると、人形を手にしたファンらが、次々とハイタッチを交わし、奇声を挙げた。今回、そのときに比べればまだ反応がおとなしかったが、それでもファンらの満足げな笑みは同じだった。

一度球場内に入ったあと、もう一度イチロー人形をもらおうと外に出る複数のチケットを買ったファンたち 【丹羽政善】

田沢も驚いたファンの人混み

現地時間17日には、かつてのチームメイトであるマルチネス打撃コーチやフェルナンデス、岩隈らと並んで3000安打記念セレモニーが行われた 【写真は共同】

 イチローにとっては、およそ3年ぶりのシアトル。

 シアトルのファンにとってもイチローのプレーを見るのは2014年以来となる。一目見よう、あるいは、サインをもらおうと、17日の初戦からイチローがストレッチを始める時間になると、三塁側の客席は人が鈴なりとなり、ファウルグラウンドもゲストで溢れた。初日、まさにその人混みの中にいたマーリンズの田沢純一も驚く。

「これ、みんなイチローさんを見に来たんですかね」

 当のイチローは、「いや、人がいなかった」とうそぶいたが、初日の試合前に行われた3000安打達成の記念セレモニーで名前を呼ばれると、客席からスタンディングオベーションで迎えられ、熱いものがこみ上げた。

「もう、忘れられていてもおかしくない年月ですからね、あんな風に迎えてくれたら、そりゃあ、うれしいわね」

 ホームベース付近では、かつてチームメートだった岩隈久志、フェリックス・フェルナンデス、カイル・シーガー、エドガー・マルチネス打撃コーチの4人が待っていた。一人一人と握手を交わしながら、イチローの表情がさらに緩む。

「エドガーとか、クマとかも来てくれて、やっぱり一緒にやっていた選手が、あんな風にしてくれたら、そりゃあ、うれしいっすよ」

 マリナーズもさすがに、イチローが喜ぶツボを心得ている。

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著者プロフィール

丹羽政善

1967年、愛知県生まれ。立教大学経済学部卒業。出版社に勤務の後、95年秋に渡米。インディアナ州立大学スポーツマネージメント学部卒業。シアトルに居を構え、MLB、NBAなど現地のスポーツを精力的に取材し、コラムや記事の配信を行う。3月24日、日本経済新聞出版社より、「イチロー・フィールド」(野球を超えた人生哲学)を上梓する。

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