「勝つための補強」でタイトルを狙う神戸 監督は現場とフロントの一体感に手応え

高村美砂

クラブ史上初の開幕4連勝を飾る

前節に今シーズン初黒星を喫するも、開幕から4連勝を記録するなど神戸が勢いを見せている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】

 4月1日に行われた第5節の浦和レッズ戦に敗れ(1−3)、連勝記録を伸ばすことこそできなかったが、クラブ史上初の開幕4連勝を飾るなど、ヴィッセル神戸が勢いを見せている。

 シーズン開幕前、就任3年目となるネルシーニョ監督は、新加入選手とともに新体制発表会見に臨み「本気でタイトルを狙いにいく」と口にしたが、まさにその決意を結果で示す4連勝――。これこそが、今シーズンを迎えるにあたって「3年目でようやくクラブが私の要求に応えてくれた」と話していた監督としてのプライドの示し方だろう。会見での言葉がよみがえる。

「われわれの目的はタイトルを獲るために、クオリティーの高いチームを作ることだ。そのためにクラブと一丸となって協議を続けてきた。今年は1シーズン制に戻るが、J1リーグ34試合を勝ちながら戦うには、それに見合った補強が必要だ。当然、そのためには大きな覚悟、犠牲を払うことになるが、フロントはそれをしっかりと受け止めて、行動に移してくれた。

 この場にいる補強に至った選手たちは、過去のシーズンをさかのぼって分析を重ね、人として、選手として選び抜いた選手たちだ。こうした選手を補強することが、チームの底上げにつながり、本当に強いチームになるきっかけになると思っている」

タイトルに届かない現実をいかに乗り越えるか

昨シーズンはクラブ史上最高順位となる成績を収めながらも、タイトルには手が届かなかった 【写真:田村翔/アフロスポーツ】

 ネルシーニョ監督の言葉にもあるように、2017年シーズンに向けた選手補強に乗り出す上で、クラブ側と監督を筆頭とする現場スタッフは、昨年末から例年にはない頻度で協議を重ねてきた。そのテーマとなったのが、昨年、セカンドステージでは2位、年間順位ではクラブ史上最高の7位という成績を収めながらも、タイトルには届かなかったという現実をいかに乗り越えるかということだ。

 その中で明るみになった反省をもとに、出場停止選手やけが人が出てしまった際の「選手層の薄さを解消する補強」を念頭に置きながら、ネルシーニョ監督のリクエストにほぼ応じる形でクラブは選手の獲得に乗り出した。もちろん、単なる人数集めではない、適材適所に必要な人材を選び抜いた「勝つための補強」だ。

 もっとも、これまでも新シーズンへの準備期間に突入すると、何かと神戸の補強は注目を集めてきた。国内でのネームバリューのある選手が候補に挙げられ、実際に獲得に至った例も多い。とはいえ、どちらかというと明確な意図をもって必要な選手を補強したというよりも、人気や知名度を重視した選手選びのように感じられるのが正直なところだった。

 だが、ネルシーニョ監督が就任してからは、初年度こそリクエストに応じる補強とはならなかったものの、昨年はGKキム・スンギュやMF藤田直之をはじめ、夏にはDF橋本和を獲得。ネルシーニョ監督の言葉を借りれば「ようやく私の求める質の選手が加入してくれた」中で、少しずつチーム状況が整理され、並行して結果を出せるようになってきた。

通訳が明かすネルシーニョ監督の胸の内

ネルシーニョ監督は例年にはないクラブとの一体感に手応えを感じているという 【写真:長田洋平/アフロスポーツ】

 昨季の実績がクラブ側のネルシーニョ監督に対する信頼にもつながり、3年目を迎えた今季は前述の「勝つための補強」へと動いた。柏レイソル時代から数えると7年強、常にネルシーニョ監督のそばで通訳を務め、そのサッカー観を共有してきた公文栄次氏の言葉が今回の補強に関するネルシーニョ監督の胸の内を明らかにしている。

「監督は常に目指すところが明確です。それは『こんなサッカーがやりたい』ではなく、『勝ちたい』ということ。勝つために選手を選び、交代選手を決める。実際、交代選手を決めるときも『ここを修正したい』というよりは『勝つためのプレーができる選手』を選びます。だから時に、周りが『良いプレーをした』と評価したとしても、監督は次の試合でその選手を起用しないこともあります。

 その理由は『勝つためのプレー』をしていないから。ただボールを持って、自分が輝くことだけを考えている選手を監督は必要としていません。当然ながら『勝つためのプレー』ができる選手が増えるほど、結果に近づけるという信念にも揺らぎがない。そこがハッキリしている分、起用される選手も迷いなく『勝つこと』だけを考えてプレーできるんだと思います。

 そうした考えのもとに行われた今年の補強について、監督は例年にはなかったクラブとチームとの一体感に手応えを感じています。これはもちろん、クラブが現場と同じ温度で、勝つために仕事をしてくれたからこそ。監督は『私の意見が全て正しいとは思っていないが、少なからず勝つための方法の1つを知っている。その意見に今年はクラブが耳を傾けてくれた』と言っていました。それは3年目の指揮を執る上で、強く監督の背中を押すものになっているはずです」

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著者プロフィール

関西一円の『サッカー』を応援しようとJリーグ発足にあわせて発刊された、関西サッカー応援誌『GAM』『KAPPOS』の発行・編集に携わった後、同雑誌の休刊に伴い、1998年からフリーライターに。現在はガンバ大阪、ヴィッセル神戸を中心に取材を展開。イヤーブックやマッチデーブログラムなどクラブのオフィシャル媒体を中心に執筆活動を行なう。選手やスタッフなど『人』にスポットをあてた記事がほとんど。『サッカーダイジェスト』での宇佐美貴史のコラム連載は10年に及び、150回を超えた。兵庫県西宮市生まれ、大阪育ち。現在は神戸在住。

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