チッチ監督の手腕でセレソンに笑顔が戻る ネイマール依存症を克服し、最速でW杯へ
ネイマール「監督のためにどんな努力も惜しまない」
チッチ(左)は時間をかけてネイマールとの信頼関係を築いた 【写真:ロイター/アフロ】
チッチは無理にネイマールにキャプテンを任せず、A代表ではミランダをキャプテンにした。チッチには、包容力、分析力、リーダーシップ、研究熱心さ、信頼関係を作って人を動かす力がある。リオ五輪の後、キャプテンマークをつけることを拒んだネイマールに対して、時間をかけて信頼関係を作って待つことにした。そして、ネイマールの心の氷はチッチ就任から8試合目のウルグアイ戦を前についに溶けた。
「五輪の後、キャプテンはもういいと思った。でも、チッチ監督と一緒にやっていく中で、日に日に尊敬の念が増し、素晴らしい仲間と作り上げているチームのためにもう一度キャプテンをやってもいいと思えるようになった。監督のためにどんな努力も惜しまない」
25歳になったネイマールはついにキャプテンに返り咲いた。「サッカーは団体競技。1人では何もできない。」とチッチは言う。ネイマールは本当の意味で彼にしかできないキャプテンという役割を引き受けることにしたのだ。
チッチは19歳のガブリエウ・ジェズスも臆することなく起用した。W杯南アフリカ大会の前に、こんなことがあった。サントスで旋風を巻き起こしていた18歳のネイマールと21歳のガンソがいた。ドゥンガが2人にチャンスを与えるかは国民の最大の関心事だったのだが、ドゥンガが無視をすると決めた時、落胆ムードが国中を包んだことを思い出す。チッチからの信頼を得たガブリエウは年齢など関係なく、チームの主力になった(現在はけがで戦線離脱中)。
ブラジルサッカーの誇りを取り戻してくれた
世界最速でW杯の出場権を獲得し、ブラジルサッカーは誇りを取り戻した 【Getty Images】
前会長が汚職の容疑からスイスで逮捕され、現在は「ブラジルから出たら、逮捕されるかも」と言われる人物が会長として君臨している。それだけに、改革や改善はなかなか進まない。ブラジルサッカーのブランド力をもっと上げる策を取るべきだし、監督ライセンスの整備や選手育成に関して改善しなければいけないことは山積みだ。それでも、チッチをセレソン監督に選んだことだけは英断に値した。
3月28日にパラグアイ戦(3−0)が行われたコリンチャンスアリーナは、チッチのホームグラウンドだった。コリンチアーノ(コリンチャンスのサポーター)に限らず、パルメイラス、サントス、サンパウロと他クラブのサポーターたちが、みんなでチッチの凱旋(がいせん)を祝い、勝利に歓喜した。世界最速でW杯ロシア大会の出場権を獲得したことで、ブラジルサッカーの誇りを取り戻してくれた。
ブラジルサッカーを全て否定するような絶望感からは解放され、国民はやっとミネイロンの1−7(W杯ブラジル大会準決勝のドイツ戦)は事故だったと言えるようになってきた。もちろん、ここが終着点ではなく、ブラジルの最低ラインは常にW杯優勝だ。
ドイツに1−7で敗れた後、声を荒げてインタビューに答えていたマルセロの悲壮感はもうなくなった。弾けんばかりのマルセロの笑顔がセレソンの明るさと今後の希望を見せてくれた。