リーグ屈指の攻撃力を誇るサンウルブズ 今季初勝利のために必要なことは?

斉藤健仁

スクラムも安定「まだまだ良くなる」

7人制の世界的スーパースターであるセナトラ(11番)を倒す庭井(2番) 【写真:Haruhiko Otsuka/アフロ】

 もちろん攻撃の裏にはFWの奮闘があり、特にアタックの起点となるセットプレーの安定が目を見張るものがある。昨年は専門コーチ不在で最後まで苦労したスクラムはマイボールの成功率が100%でトップタイ、またティアティアHCが指導してきたラインアウトも、昨年は成功率が唯一の70%代で76.8%だったが、今年は86.4%まで上昇。セットプレーの安定こそアタックが機能した大きな要因となった。

 スクラムに関して、日本代表でも指導する長谷川慎コーチは「いい感じじゃないですかね。想定していたよりもいい。思っていたより強くなかった(苦笑)。もちろん相手が強かったり、うまくいかないこともあったりしたが、修正したらまだまだ良くなる」と手応えを感じていた。また遠征で中にデビューを果たしたHO庭井祐輔は「だいぶ通用した。ストーマーズ戦ではしっかり組めた」、PR山本幸輝も「(今後は)耐えるスクラムではなく押すスクラムをしたい」と自信を深めた様子だった。

キックで陣地を稼ぐことができず

南アフリカ勢の身体能力の高さにも苦戦した 【写真:ロイター/アフロ】

 それではなぜ、セットプレー、そしてアタックも良かったサンウルブズは、もう少しのところで、勝利を手にすることができなかったのか。

「試合運びがまだまだ課題だった」とある選手が言うように、エリアマネジメントがうまくいっていない点があるだろう。サンウルブズは、日本のシーズンが1月末まで行われており、もっとも準備期間が短いチームである影響が出ている。誰がキックを蹴って、どのように追って、プレッシャーをかける、そしてターンオーバーするかというところはまだ煮詰まっていない。

 また南アフリカ勢のSOには、どのチームもロングキッカーがそろっていたが、サンウルブズは遠征で3戦に先発出場したSOヘイデン・クリップスはキック力があまりなく、ロングキッカーのFBリアン・フィルヨーンもケガで不在。遠征中のメンバー、特にバックスリーはランやアタック能力はあるもののキックが得意ではなく、なかなか陣地を稼ぐことはできなかった。

 そうなると南アフリカ勢は、さらにサンウルブズの攻撃時間を減らそうと得意のフィジカルを前面に押し出しFW周辺での攻撃時間を増やし、さらに反則を得ればタッチに蹴ってモールを組んでくる。そうなるとなかなか相手を止める術はなかった。

「(所属している)トップリーグのチームとは違うので」という声も聞くように、極端に前に出るディフェンスシステムにまだなじんでいない選手も多く、前に出なくていい場面でも詰めてしまう場面もあった。そうなると自然とタックル成功率は下がり、サンウルブズは下から2番目の77.8%となってしまった。

4月8日、ホーム・秩父宮で初勝利を狙う

厳しい遠征で経験を積んだメンバーが、今季初勝利を狙う 【写真:Haruhiko Otsuka/アフロ】

 個人的にも「もう少し、緩急をつけるなど試合をうまく運べば……」と思ったものだが、選手の多くが「いい経験になった」、「個人的に自信になった」と言うように、今回が初のスーパーラグビーのツアーとなった選手も多く、今後の糧になっていくはずだ。またHO坂手淳史のように途中から合流した選手もいる中で、「誰一人として文句も言わなかったし、チームとして成長した」(田邉コーチ)ツアーとなった。

 日本代表=サンウルブズとなり、2019年のワールドカップを見据えれば、いい強化ができていることは間違いない。だが、サンウルブズはあくまでもプロチームであって優勝を争っていることを考えれば、開幕5連敗は少々寂しい。いいラグビーをするだけでなく、ファン心理からすれば勝ちこだわるラグビーも見せてほしい。

 23日に帰国したサンウルブズはバイウィーク(休みの週)を挟んで、4月8日、ホームの東京・秩父宮ラグビー場にブルズを迎える。遠征で力をつけてきた選手に、休養やコンディションを整えた国際経験豊富な選手をどう融合させるのかはコーチ陣の腕の見せどころとなる。

 4月から5月にかけてニュージーランド・アルゼンチン遠征も待ち受けており、苦戦は必至。このホームのブルズ戦で勝利しておかなければ、今年、1勝もできないという事態にも陥りかねない。チームスローガンは「RISE AS ONE(ライズ アズ ワン)」。この一戦こそ、チーム一丸となって、ホームのファンの前で今年初勝利を挙げてほしい。

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著者プロフィール

スポーツライター。1975年生まれ、千葉県柏市育ち。ラグビーとサッカーを中心に執筆。エディー・ジャパンのテストマッチ全試合を現地で取材!ラグビー専門WEBマガジン「Rugby Japan 365」、「高校生スポーツ」の記者も務める。学生時代に水泳、サッカー、テニス、ラグビー、スカッシュを経験。「ラグビー「観戦力」が高まる」(東邦出版)、「田中史朗と堀江翔太が日本代表に欠かせない本当の理由」(ガイドワークス)、「ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「エディー・ジョーンズ4年間の軌跡―」(ベースボール・マガジン社)、「高校ラグビーは頭脳が9割」(東邦出版)、「ラグビー語辞典」(誠文堂新光社)、「はじめてでもよく分かるラグビー観戦入門」(海竜社)など著書多数。

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