選抜初勝利を目指した絶対エースたち 明暗分かれ好投手対決は実現ならず

楊順行

福岡大大濠・三浦の祈り

創志学園との初戦、3失点完投勝利を収めた福岡大大濠・三浦 【写真は共同】

 やばい、と思った。

 創志学園(岡山)に5対3と詰め寄られた8回裏、福岡大大濠(福岡)の攻撃。2死満塁で打席に立ったエース・三浦銀二の右ひじを、難波侑平の3球目が直撃する。押し出しの1点。

 女房役の古賀悠斗が、「自分としてはあの場面、体を張ってほしくはないですが(笑)、体を張ってもぎ取ってくれた」貴重な追加点だが、なにぶん利き腕への死球である。9回表の投球に、影響が出なければいいが……。

 三浦は言う。

「当たったのは骨じゃなく筋肉の部分だったんで、痛みが出ないことを祈りました」

 マウンドは譲りたくない。投球練習。痛みは出ない。”祈り”は通じたようだ。先頭打者は、この日マークした自己最速145キロに迫る144キロで三振。後続には1安打を許したが、3失点(自責は2)で要所を締め、危なげなく完投した。打線も、8番の樺嶋竜太郎が大会記録タイの2打席連続アーチを放つなど、8安打6得点。26年ぶり4度目の出場という福岡大大濠にとって、センバツは初勝利だった。

「先輩たちができなかったセンバツ1勝ができてうれしく思います」

打倒・早実を掲げる“ミスターゼロ”

8回裏2死満塁、三浦の右ひじに当たる死球で福岡大大濠が追加点 【写真は共同】

 三浦は、前評判の高い好投手だ。昨秋の九州大会では、夏の甲子園4強メンバーが多く残る秀岳館(熊本)戦などに3試合連続完封。チームの公式戦全13試合を完投し、6完封という“ミスターゼロ”だ。

 入学時、1学年上の濱地真澄(現阪神)の球威を見て愕然(がくぜん)とした。

 当時、三浦の球速は120キロそこそこ。「なにか武器を手に入れないと、試合で投げられない」と、手にした武器が制球力だ。1試合あたりの四死球は2個強。しかも内外角の出し入れがうまく、球速だって入学時からすれば20キロ以上もアップした。公式戦の投球回数110は32チーム中最多で、防御率1.64と安定している。

 神宮大会の明徳義塾戦では、またも4安打3四死球の完封劇。10月の練習試合でも6対3で勝っていた。濱地譲りの投球術にも定評があり、「練習試合のときは投げてこなかったインコースを、うまく使われた。頭のええピッチャーやね」と甲子園を知り尽くした馬淵史郎監督をも脱帽させている。

 そしてこの日は、「冬を越えて、質が上がってきた」と古賀の言うカーブを有効に織り交ぜ、うまく緩急を使うスタイルも見せた。八木啓伸監督が寄せる、三浦への信頼は絶大だ。

「球の力そのものはあった。安心して任せられます」

 昨秋の神宮大会では、準決勝で早稲田実(東京)に12安打6失点で敗退。清宮幸太郎に1安打4四死球、野村大樹に5打数3安打4打点と打ち込まれた。ただ、それは秋の時点の話。冬を越えたいまは、「(早実という)チームを倒したい。個人に打たれても、勝てばいいんです」と手応えをつかんでいる。

 大濠と早実がこの大会で対戦するとすれば……決勝である。

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著者プロフィール

1960年、新潟県生まれ。82年、ベースボール・マガジン社に入社し、野球、相撲、バドミントン専門誌の編集に携わる。87年からフリーとして野球、サッカー、バレーボール、バドミントンなどの原稿を執筆。高校野球の春夏の甲子園取材は、2019年夏で57回を数える。

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