FC今治が乗り越えるべき「JFLの壁」 「門番」とのスコアレスを評価すべきか?

宇都宮徹壱

押し込まれながらも失点ゼロで抑えた今治

わずかなチャンスからゴールを狙う佐保(11)。残念ながら出番は45分のみ 【宇都宮徹壱】

 試合は13時キックオフ。この日は、LDHの人気グループ、GENERATIONS from EXILE TRIBEのメンバーが駆け付けたこともあり、入場者数はクラブ史上最多となる3065名を記録した。地方開催のJFLとは思えないくらい華やいだ雰囲気の中、先にペースを握ったのはアウェーのHonda FC。フラットな4−4−2の陣形で、小気味よくボールを回しながら2トップにボールを当てて、さらに両ワイドがセカンドボールを狙っていく。前半14分には、久野純弥のシュートを今治GK今川正樹がはじき、これを富田湧也が豪快なオーバーヘッドで狙うシーンがあったが、シュートは枠を外れた。

 今治の反撃は、ワイドを有効に使ったパス交換から始まった。Honda FCの関コーチが警戒していたパターンである。その対応策は「同サイドをコンパクトにして奪う」というものであったが「前半は後ろが重くなってしまって、中盤で数的不利を作られてしまった」。そこで得たわずかなチャンスから、最も積極的にシュートを放っていたのは、この日左のワイドトップ(ウイング)で起用されていた佐保である。前半、今治が記録した4本のシュートのうち、佐保が放ったのは実に3本。もっとも、ゴールへの意欲は旺盛ながら、なかなか得点に結びつかないのが、この人の欠点である。結局、ハーフタイムでお役御免となり、米国人のレニーと交代となった。

 後半のHonda FCは「後ろが重たくなる」傾向を修正し、より中盤でアグレッシブなプレスをかける戦術にシフトしていく。球際の強さでは、明らかに今治には分が悪い。加えてポゼッションでも相手を上回ることができず、パスを回しながら相手を消耗させることもできない。ずっと押し込まれる場面が続く中、それでもGKの今川をはじめディフェンス陣が体を張ったブロックを連発し、何度となくピンチを未然に防いだ。後半28分には、疲れの見える小澤に代わって岡山和輝、さらに38分にはセンターバックでキャプテンの金井龍生を下げて斉藤誠治が投入される。スタメン組との実力差が懸念されたが、どちらも自分たちの役割をしっかりこなし、大きく戦力がダウンすることはなかった。

 かくしてスコアは動かないまま、タイムアップのホイッスルが鳴る。今治を追いかけてきて、今季で3シーズン目となるが、取材した試合がスコアレスドローに終わるのは今回が初めてであった。四国リーグでは情け容赦なくゴールを揺さぶり続け、全社(全国社会人サッカー選手権大会)や全国地域サッカーチャンピオンズリーグ(地域CL)ではあっけなく失点してしまう。地域リーグ時代には、そうしたゲームを何度も目にしてきただけに、これほどタイトな試合展開が見られたのは、非常に新鮮な経験であった。ならば、JFLチャンピオンを相手に0−0という結果を、どのように捉えるべきなのであろうか。

「全国リーグの壁」はクリアできるのかもしれないが……

試合後の会見に臨む岡田オーナー。強豪相手の2試合連続の引き分けに何を思うか? 【宇都宮徹壱】

「もう1本パスがあって良かった。横パスを入れてからラストパスだったら、というのは結果論ですが。ラストパスを出したら捕まったのは、(相手がパスコースを)逆に空けていたのかもしれない。それからフィジカルだと相手が上でした。そこをどうかいくぐっていくかが、今後の課題です」(吉武博文監督)

「この2試合で去年の(JFL)1位・2位と当たったので、自分たちの力を見極めようということで言えば、まだまだ力が足りない。もうちょっとできるかなと(思っていました)。ある意味、この2試合でわれわれの問題点が明確になったと思います。後半戦に向けて、補強も考えやすくなりました」(岡田武史オーナー)

 吉武監督も岡田オーナーも、立場上、あまり楽観的なコメントを言うべきではないという判断が働いたのだろう。どちらも試合後の表情は、喜んでいるわけでも怒っているわけでもない、いささか微妙なものに映った。なかなか届かない勝ち点3。それでも、岡田オーナーがいみじくも語るように、昨シーズンのステージ王者と連戦して負けなかったことは評価していいだろう。もちろん課題もないわけではない。が、今後の戦術的な修正や補強が奏功すれば、「全国リーグの壁」はクリアできるのかもしれない。むしろ気になったのは、「スタジアムの壁」と「入場者数の壁」である。

 まず、スタジアム。今季、夢スタが稼働するまでの間、今治はひうちの他に、愛媛県総合運動公園球技場、スカイフィールド富郷(以上、愛媛県)、びんご運動公園、福山市竹ヶ端運動公園(以上、広島県)の5会場でホームゲームを行わなければならない(ちなみに夢スタ完成後も、愛媛国体開催の関係で福山で1試合を行う)。加えてファーストステージの第5節から第8節まで、今治は4試合連続でアウェーで戦うことになっている。ハードな移動に加え、異なるピッチ状態で、どれだけ自分たちのスタイルを出し切れるかという課題も、いずれ浮上してくることだろう。

 そして入場者数。「3065人」という数字は素晴らしいが、実際のところGENERATIONS目当ての客がかなりいたのも事実だ。ホームゲーム会場が定まらない中、今後「FC今治」というコンテンツだけで、どれだけの集客を確保できるのだろうか。

 岡田オーナーは「逆に今治以外のところでサポーターを作るチャンスだと思う。そこにエネルギーを注ぐことで、ホーム(夢スタ)に戻ってきてからの観客数増につながる」とポジティブに捉えている様子だ。確かに一理ある。しかしその一方で、全国リーグで戦うことになった今季は、「今治市民との共闘」をより鮮明にしていく必要がある。実は試合前日、地元在住のサポーターから入念な聞き取りをして、今治のホームタウン活動に関しては、まだまだ改善の余地ありと感じた。いずれ稿を改めて論じることにしたい。

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著者プロフィール

1966年生まれ。東京出身。東京藝術大学大学院美術研究科修了後、TV制作会社勤務を経て、97年にベオグラードで「写真家宣言」。以後、国内外で「文化としてのフットボール」をカメラで切り取る活動を展開中。旅先でのフットボールと酒をこよなく愛する。著書に『ディナモ・フットボール』(みすず書房)、『股旅フットボール』(東邦出版)など。『フットボールの犬 欧羅巴1999−2009』(同)は第20回ミズノスポーツライター賞最優秀賞を受賞。近著に『蹴日本紀行 47都道府県フットボールのある風景』(エクスナレッジ)

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