プロスケーターが語るアマとの違い 厳しい環境の中でも感じる「やりがい」

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プロというカテゴリーがないに等しい

プロになると現役時代に比べて練習量が減る。その中で良好な状態を維持することが求められるという 【坂本清】

――選手時代と現在で練習にはどういう違いが出ていますか?

松村 選手時代はショートとフリーのプログラムを作って、その中で曲をかけて本番どおりに練習するという形でした。もちろんショーの練習でも全部通してやるんですけど、現役のときと比べて量は減りました。時間と場所を設けるのが大変なので……。

小林 一番の違いはプロになると練習量が減ることですね。フィギュアスケートにはプロというカテゴリーがないに等しい。現役選手は朝から晩までリンクの貸し切りがあるんですけど、僕たちにはない。選手時代の10分の1くらいの練習で良いパフォーマンスをしていかないといけないですし、良い状態を維持していく必要があるという厳しさがあります。与えられた環境の中でもやらなければいけないというのが大きな違いですね。

――現在はどのような環境で練習しているのですか?

小林 普段はプリンスアイスワールドの方で、現役選手の練習が終わったあとに1時間くらいリンクを貸し切りで抑えてくれます。ただし土日はなしで、平日に週3日か4日あるときもあれば週1日のときもあるし、ないときもある。せっかく状態が上がってきたのに2週間練習がないなんてこともあります。

松村にとってのやりがいは、ファンの言葉と、チーム一丸となってプログラムを作り上げることにある 【スポーツナビ】

――そうした環境の中で、どういう部分にやりがいを感じていますか?

松村 お客様の言葉がうれしいですね。「ジャンプが良かったよ」「ダンスがすごくカッコいいね」「また見に来るよ」という言葉が、僕たちの次のステップにつながる言葉になるので、そういう言葉をいただくために、全力を注いでいることが僕にとってのやりがいです。チーム一丸となってそのために力を合わせてやる。僕たちは1カ月間でプログラムを作るんです。そのときは1週間から2週間ほど深夜から練習を始めて朝5時までやったりします。インストラクターの仕事をしている方が多いので、すぐにそのまま仕事に行くなんてこともあります。本当にハードなんですけど、やりがいはあります。

小林 僕は神宮のスケート場で教えているので、終わったら神宮まで行って……。その1週間は本当に寝る時間がないです(苦笑)。

松村 不眠でしたよね。そのときは宏一くん、魂が抜けた感じでしたもん(笑)。

小林 抜けていたよね(笑)。もちろん全員がそうではないですよ。たまたま僕が神宮が教えていたので……。選手のときは自分の練習だけ出ていればいいんですけど、コーチとなると5クラスあった場合、全部出ないといけないですから。

――そういう過酷な現実はあまり知られていないように感じます。

小林 知られることもないと思っています。何があってもショーの幕は必ず開けないといけないですし、僕たちが大変だったというのは見ているお客さんには関係ないことですから。お金を払って楽しみに来ているので、あまり気にしたことはないです。ただ、スケートに関しては、昔は22歳まで大学に行って、卒業したらどこかに就職するという選択が9割だったんです。それが徐々に変わってきて、ショーの世界に行く人も増えてきました。そういう就職先にしたいですし、それで生活ができて、そのあとはコーチ業に行くという、1つの選択肢にしたいなと思っています。見に来た子供たちがこういうショーをやりたい、ああいう人になりたいなと思われるようなショーにしていきたいですね。

コンサートみたいなショーをやりたい

「スケートのショーをもっと広めていきたい」。2人の思いは共通していた 【坂本清】

――ご自身でショーをプロデュースするとしたら、どのようなショーにしたいですか?

小林 コンサートみたいなショーをやりたいですね。僕たちはまず滑れるというのが強みです。だったら滑って、踊って、跳んで、ステップを踏んで、歌って、上の空間も使ってできたら、こんなすごいショーはないなと。せっかくこれだけ人気が出てきているので、歌ってもいいんじゃないかと思っています。全国ツアー、アリーナツアーなんかができたらいいですよね。

――プロとして大事にしていることは何ですか?

小林 ファンの方々ですね。やっぱりファンがいないと、僕たちはやっていけないんです。選手時代はたとえファンがいなくても、メディアを敵に回しても結果を残せばいいんですけど、プロになったらやっぱり見に来てくれるお客さんがいないとダメなので。あと今感じているのは、プロとしてやっていくには、カッコいいから、スケートがうまいから、ジャンプが跳べるから、知名度があるからという問題じゃないんですよね。人を引きつけるものがないといけない。ジャンプをバンバン跳んでいても、知名度があっても、その人が人気があるわけではない。自分たちがお客さんからどう見られているかを常に意識する必要があるし、自分たちが満足するよりも、まずはお客さんを満足させないといけないと思っています。

松村 ファンは本当に僕たちの宝物だと思っています。ずっと応援してくださる方がいるのであれば、その方の友達にも見に来ていただけるように、1回1回の公演をしっかりやっていきたいです。あとは、ショーを見に来たファンに「スケートを習いたい」と思ってもらえるようにしたいので、そういうことからもファンに愛される人間になっていかないといけないと思っています。

――最後に今後の目標を教えてください。

松村 まずはプリンスアイスワールドチームで、自分の体が動かなくなるまで魅せ続けることができればいいなと思っています。そのためには、トレーニングなど不可欠なことがたくさんあるので、それをやりつつ、インストラクターになって子供たちのレッスンを早くしたいなと思います。父と姉が教えていて、けっこう生徒が増えてきているので、そのアシスタントもやって、ジャッジの勉強もして、テクニカルな部分にもきちんと答えられるように、何でもできるようにしていきたいなと思います。

小林 やっぱりプリンスアイスワールドをもっと大きくしていきたいです。最終的には「今日どこに行く?」となったときに、「暑いからプールに行こう」「ディズニー行こう」という中に、「今、プリンスアイスワールドがやっているらしいから見に行こうよ」という選択肢が加わるくらい、プリンスを引き上げていきたいですね。

(取材・文:大橋護良/スポーツナビ)

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