ロッテ・中村奨吾、伝統の「8」を背に あこがれのショート狙う覚悟の3年目

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両サイドに“カベ”を作る感覚で光差す

チームがCS出場を決めた9月24日のオリックス戦、中村は起死回生の同点2ランを放つ 【写真=BBM】

 時を同じくして、バッティングにおける技術面でもわずかな光が差し込みかけていた。

「バッティングの状態が悪いと周囲からの情報を全部取り入れようとしてしまう。自分に必要なものと、必要でないものを選択することができなくなってしまっていた」。そこまで追い詰められていた中村に、キャプテンの鈴木大地が、同じく打撃不振に苦しんでいた清田育宏が、多くの仲間たちが声を掛けてくれた。

「本当に誰がというわけではなく、たくさんの人に支えられた。挙げたらキリがないほどです」

 その中で、大きなヒントを与えてくれたのが打撃術にかけてはチームでも随一のベテラン・福浦和也だった。「右バッターだったら普通、左側に”カベ”があると言われるんですけど、福浦さんに『右側にも”カベ”はある』とアドバイスをいただいて」。

 これまでは打ちにいきたい気持ちが先に立っていた。それで結果が出ないと、今度は受けに回ってしまう。すると差し込まれる。その折衝点が見つからずに、行ったり来たりを繰り返していたが、福浦の言う「両サイドにカベを作る」という感覚は、中村の中でしっくりくるものだった。

 9月24日、2年連続のAクラス入りまで“マジック1”として迎えたQVCマリンでのオリックス戦。1対3で迎えた9回裏、1死一塁で中村は起死回生の同点2ランを左翼席にたたき込む。「自然と集中できていたのかな。吹っ切れていた分、バットも振れていた」。延長10回には細谷圭のサヨナラ打が飛び出し、チームはクライマックスシリーズ(CS)への出場権を手にした。

 さらに、26日のソフトバンク戦(QVCマリン)でも本塁打を含む3安打。「まだCSはありましたけど、あの2試合でここからどうしていかなければいけないかというのが少し見えましたね」。

鈴木のコンバートが福音に?

昨季は三塁が主な守備位置だったが、今季は二遊間、とりわけ遊撃へのこだわりを持つ 【写真=BBM】

 苦しかったシーズンの最終盤に差し込んだわずかな光明。その手応えを確たるものにするため、中村は秋季キャンプからオフの自主トレ、そして春季キャンプと精力的に取り組んでいる。

「16年は技術面でも精神面でもぶれてしまい、自分の”芯”を失ってしまった。だから自主トレからバッティングでのチェックポイントをいくつか作って、たとえ状態が悪くなったときでも早く取り戻せるように。もちろんアドバイスしていただいたことも含め、意識しながらやっています」

 まずはセカンドのレギュラー奪取。それが現実目標だと思っていたが、キャンプインを前にして伊東勤監督は、16年にショートでベストナインに輝いた鈴木をセカンドへ電撃コンバートすることを決めた。「本職は大学時代から守っているセカンドだと思うんですけど、でもショートにはずっとあこがれがあります」という中村にとって、それは福音となるのかもしれない。

 だが、競うべき相手は多い。伸び盛りの平沢大河、大嶺翔太らと繰り広げるショートのポジション争いにおいて、勝負を分けるものは何になるのだろうか。

「やっぱりバッティングです。守備にも最低限の自信はありますけど、やっぱり野手は打てなければ試合に出られない。行くべきところでは持ち味の思い切りの良さを出して、我慢するところは我慢して。1球ごとの判断力というのを上げていきたいと思います」

 開幕戦で再びスタメンへ名を連ねるべく泥にまみれる中村の背中には、今季から「8」の数字が踊っている。山内一弘、有藤通世、そして今江。ロッテの顔というべき選手が背負ってきた伝統の番号だ。

「活躍してもいないのに、おこがましいとも思ったんですけど。でもそれだけ期待してもらっているということ。今年こそはしっかりと結果を出して、チームの勝利に貢献しなければいけない。今年が終わったときには『いい年だったな』と言えるように。『16年の苦しみが生きたな』と言ってもらえるように。頑張っていきたい」

 それは3年目の“覚悟”と言っていいのかもしれない。伝統の“8”を背に、中村にとっての本当の勝負がここから始まる。


(文=杉浦多夢)

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