レスターの躍進を支えたGPSデバイス テクノロジーがスポーツに与える影響

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けがのリスクを削減した札幌の事例

札幌はコンディショニングの問題を解消するため、カタパルトのソリューションを導入した 【提供:Catapult Sports】

「オプティムアイ S5」を多くのクラブが導入するようになった背景として、15年7月にあったFIFA(国際サッカー連盟)のあるルール変更がある。GPSなどの計測デバイスを、試合中に着けることが認められたのだ。これにより、練習と試合を同じ“評価基準”で見ることが可能になった。

「Jリーグでもトラッキングシステムを導入していますが、あれは試合だけのデータなので、通常の練習と比較できるデータではない。うちのシステムなら試合と練習で同じデータが取れるので、比較はしやすいですね」

 このメリットをうまく使いこなしたのが、昨シーズンの北海道コンサドーレ札幌だ。札幌は地理的な問題から他クラブよりも試合時の移動距離が長く、気温差も大きくなる。そのため、これまでは選手のけがが多かったという。コンディショニングの問題を解消するため、16年4月にカタパルト社のソリューションを導入した。

「昨シーズン終了後、普段なら夏場にコンディションが落ちるところを、今季は落とさずに済んだというフィードバックを(札幌から)もらいました。四方田(修平)監督やスタッフは練習の後に必ずデータをチェックしていたんです。試合でもデバイスを着けているので、試合で必要な運動量や強度は分かっている。それを100パーセント出させるためにはどうしたらいいのか。そこをフィジカルコーチが見ていました。

 例えば、試合前の練習で試合に必要なスピード(強度)に達していない選手がいたら、追加で走らせるといったことはしていたみたいですね。試合でいきなり(強度の高いプレーを)出さずに済むので、筋肉に掛かる負担を軽減できるのです」

管理画面のイメージ。GPSの情報を元に、さまざまなデータをリアルタイムに見ることができる 【スポーツナビ】

 先程のけがのリスクを削減する例では、強度を見る際に加減速の回数だけを見たが、スポーツサイエンティストがいる海外のチームでは、プラスして心拍数などさらに複数の項目を見ることもある。札幌の事例のように、何のために機材を使うのかという目的を明確に持ち、どう使うのかが大事だ。

「(機材を)入れたからと言って優勝できるわけではない。導入したら終わりではないですし、コーチがどう使うかによって差が出ると思います。今後は使いこなせる人材を育てていくことも大事ですね」

「日本人にもデータに慣れてほしい」

「最終的には日本にスポーツのデータをより理解してもらえるような土壌を作っていきたい」と語る斎藤氏 【スポーツナビ】

 カタパルトのソリューションは現在、主にパフォーマンスを最大限に発揮するために活用されている。だが、斎藤氏は、「観ている人やスポーツに関わるすべての人にメリットがあるようなシステムになる」と今後の展望を語る。

 既にカタパルトの本社があるオーストラリアでは、ほぼすべてのチームがウェアラブル端末を導入している。そうなると各チームがより高いパフォーマンスを発揮できるようになり、試合もよりエキサイティングなものになる。さらに、計測したデータをリーグやメディアが観客にも開示できるようになれば、スポーツの新たな楽しみ方を提供できるという。

「データを開示すると、見ている側が徐々にデータを解釈できるようになる。欧米だとデータが日常にあって、何事も議論するにはデータでバックアップするようなロジカルな考え方があります。スポーツに関して言うと、日本ではまだロジカルというよりは感情的なところがある。

 例えば、自分の好きな選手が使われていないとなんで使わないんだと監督に文句を言う。でも、実際にデータを見てみれば監督が正解かもしれないし、もしかしたらそうではないかもしれない。こうした議論がもう少し気軽にできるように、日本人にもデータに慣れてほしい」

 一般消費者向けのウェアラブル端末も開発中だ。今後1〜2年の間に、1〜3万円程度のデバイスがリリースされる見込みだという。機能は若干異なるものの、「オプティムアイ S5」が1台約40万円であることを考えると、かなり低価格に抑えられる。

「一般消費者向けのデバイスは高校生や大学生、社会人で楽しんでいる人にも使ってもらえるような環境を作っていきたいですね。それができれば楽しみ方が増えるし、スポーツをする人が増えると思うんです」

 昨シーズンのレスターの活躍やJクラブが使い始めたことにより、国内でも各スポーツの強化部や選手の理解も進み、問い合わせの数が増えたという。しかし、現状でカタパルト社のソリューションを導入しているのはJリーグでも54クラブ中10クラブと、まだまだ伸びしろが残されている。「最終的には日本にスポーツのデータをより理解してもらえるような土壌を作っていきたい」と語る斎藤氏の挑戦は、まだまだ始まったばかりだ。

(取材・文:豊田真大/スポーツナビ)

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