アマチュアで戦う日本人選手たちの現状 瀬田元吾、ドイツサッカー解体新書(5)

瀬田元吾

ブンデスリーガが外国人枠を廃止

フォルトゥナU−23vs.ボルシア・ドルトムントU−23の一戦。若きタレントたちはドイツ4部リーグで経験を重ね、トップチーム昇格を目指している 【写真:瀬田元吾】

 ドイツでプレーする日本人選手が飛躍的に増えた大きな理由として、まずブンデスリーガが外国人枠を撤廃し、逆にドイツ人枠(トップチームにおいて最低12人のドイツ人と契約すること)を設定したことが挙げられる。これにより、日本もEU加盟国と同じ扱いを受けることができるため、同時にチームに2、3人の日本人選手が所属するケースも生じるようになった。

 また、3部や4部は基本的に若いドイツ人選手がプレーすることが推奨されているだけでなく、11年まではEU加盟国以外の外国人選手には、たとえ3部リーグ所属のクラブとの契約であっても労働許可が下りなかった。しかし、ルールが緩和され、アンゴラ、オーストラリア、イスラエル、日本、カナダ、モナコ、ニュージーランド、サンマリノ、米国の国籍を保有している選手は、条件を満たす雇用契約を結ぶことで、労働許可が下りることになった。これも、日本人選手にとっては大きなアドバンテージと言える。

 ただし、3部に関して言及すると、このリーグのレベルは決して低くない。日本でプロクラブから声の掛からない選手たちにとっては、かなりハードルの高いリーグと言わざるを得ない。事実、過去にプレーしたことがある日本人選手は石原卓(ザールブリュッケン/14−15)や丸岡満(ドルトムントU−23/13−15)などごくわずかだ。

代理人制度の廃止がもたらしたもの

 これまでに紹介したように、ドイツのサッカー界は1部リーグから4部リーグまでは厳しいルールを設けて、若いドイツ人選手にチャンスを与えられるように試行錯誤をしてきた。一方で5部リーグ以下に関しては、制限なども一気に緩和されており、さまざまなバックグラウンドの選手がプレーをしている。

 ドイツには基本的には学校単位で部活動をすることがないため、育成年代であるU−19のカテゴリーを超えてサッカーを続ける場合は、成人リーグでプレーすることになる。そういった選手たちは、大学や専門学校に通いながら、または仕事をしながら、5部以下のアマチュアクラブでプレーしているケースが多い(4部でプレーしている学生も数多く存在する)。地域によって存在するクラブ数に差があるものの、それ以下の10〜12部のリーグも組織化されており、毎週末リーグ戦を行っている。こういった5部以下のクラブにも多くの日本人選手が所属しており、ステップアップを夢見てプレーしている。

 また、14年にFIFA(国際サッカー連盟)の代理人制度が廃止されたことで、“仲介人”と呼ばれる仕事をする人間が増えたことも、アマチュアでプレーする日本人選手が増加した理由の1つだろう。FIFA公認のライセンスを取得する必要がなくなり、誰でも登録すれば仲介人として業務を行えるようになったことで、海外挑戦を目指す若者をサポートする業者も増え、ビザの取得やチーム探しのサポートをするサービスも以前と比べて飛躍的に多くなった。

“雑草海外組”のステップアップに必要なこと

 以前はブンデスリーガに所属するクラブはU−23チームを保有することが必須とされてきたが、15年からは任意となり、継続の判断は各チームに委ねられることになった。これによりレバークーゼンやフランクフルト、ボーフム、デュースブルクなど、次々にU−23チームを解体するクラブが出てきている。

 この判断は賛否両論あるが、ドイツでは23歳以下のチームでプロになる選手を育てるのはすでに遅いという考え方が根強く存在している。大学卒業後の日本の選手は早生まれでない限りU−23チームには所属できないことになるが、これが3部、4部リーグでチームを見つけることを難しくする要因となる。つまり、大卒でのデビューはドイツでは「若い」と認識されないのだ。

 またドイツでプレーするには語学の問題もある。言葉の理解に時間がかかる中でチーム関係者を納得させるためには、相当なパフォーマンスを見せなくてはならないが、その力を持っている選手は、日本でもJクラブから声がかかるレベルだろう。海外では自分がやれると思うレベルの1つ、2つ下のリーグでないと、試合に出場することは難しいと言われているが、これが仲介人らと選手の間で少なからず問題になることが多い。

 つまり、選手側から自分の望むレベルのチームを見つけてもらえないという不満が出る場合があるのだ。仲介する側は、所属チームを見つけるためにコンタクトを取ったり、通訳することで一定のお金を要求するため、その後「仲介人に騙された」「面倒見が悪い」という話に発展してしまうケースが少なくない。この問題に関してはどちらにも言い分があると思うが、“雑草海外組”のアマチュア選手たちは、自分が少し納得できないレベルであっても、とにかくピッチに立ち、結果を出すことが重要だ。そして、少しでも早く自立するためにも、絶対に語学の勉強を怠ってはいけない。

 海外でアマチュア選手としてプレーをする場合、若ければ若いほどチャンスは大きいが、年齢が上がるにつれて、サッカー選手として価値があるのかどうかを、より厳しく査定されていくことにもなる。そして価値がないと判断されたとき、自分に何が残っているのかも考えておく必要があるのかもしれない。

 海外では、日本では経験のできない環境で自分だけの人間関係を作りあげることもできるし、想像をはるかに超える多くの人たちと知り合うこともできる。誰かに頼るのではなく、自分の生きる力を育てることができるのが海外生活の醍醐味(だいごみ)でもある。ドイツで戦う若きサムライたちが、いつか日本のサッカーファンの目に留まる日が来ることを楽しみにしつつ、彼らの挑戦を見守っていこうと思う。

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著者プロフィール

1981年生まれ、東京出身。筑波大学蹴球部、群馬FCホリコシを経て2005年に渡独。ドイツではフォルトゥナ・デュッセルドルフのセカンドチームなどに所属し、アマチュアリーグでプレーしたのち、現役を引退。08年に同クラブのフロント入りし、日本デスクを立ち上げ、海外クラブの中で、広報やスポンサー営業、ホームタウン活動、スカウティング、強化、選手通訳など、さまざまなことに従事してきた。近年はドイツのプロクラブで働く「フロント界の欧州組」として、雑誌やTVを通じて情報発信を行っているほか、今年4月には中央大学の客員企業研究員にも就任している。著書に『「頑張るときはいつも今」ドイツ・ブンデスリーガ日本人フロントの挑戦』(双葉社)、『ドイツサッカーを観に行こう!ブンデスリーガxドイツ語』(三修社)。14年にドイツに設立したSETAS UG社(http://www.setags.jp/)を通じ、日独の架け橋になる活動も行っている。

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