快進撃を続ける昇格組ライプツィヒの強み 他の追随を許さない「反応速度」の速さ

中野吉之伴

選手を迷わせないハーゼンヒュットルの手腕

中盤で活躍を見せているナビー・ケイタ(左)。ライプツィヒに来て判断スピードに磨きがかかった 【Bongarts/Getty Images】

 こうした信念に基づいたサッカーがライプツィヒでも行われている。彼らのサッカーをまとめて表現すれば「規律だった守備から主導的なプレスを仕掛け、ボールを奪ったら縦に素早くゴールを狙う」となるだろうか。だが、例えば「縦に速く」というのは本来特別なものではない。現在ではこのテーマに取り組んでいないクラブはいないといえるほどスタンダードなものだ。だが、ライプツィヒのサッカーはそうしたスタンダードの域を超えるハイクオリティーを備えている。

 縦に速くボールを運ぶためには瞬発力などの「身体的スピード」、パスやドリブルの「技術的スピード」、そして状況を完全に把握し、流れを読み取るための「判断スピード」が肝心になる。ライプツィヒの試合を見ているとこの「判断スピード」が異様に速く、それを可能にするポジショニングが試合の状況に合わせて常にオートマティックに最適化されている。やっているプレー自体はシンプルかもしれない。相手守備が奪いに来るとダイレクトではたいてスペースに走り込んでいく。相手が来なければ瞬時にターンしてボールを運ぶ。その微調整と次への反応速度が他の追随を許さないほどに速いのだ。

 また彼らの成長には今季から指揮を執るハーゼンヒュットルの敏腕ぶりを抜きには語れない。中盤で主軸級の活躍を見せているナビー・ケイタはザルツブルク時代、オーストリアリーグで比類できないほどの存在ではあったが、正直プレーの判断スピードはそこまで速くはなく、独善的なプレーも少なくなかった。シュツットガルトから加入したティモ・ベルナーも確かに走り出したら速いが、「ただ速い」だけの選手でしかなかった。そんな彼らが、現在ではチームの戦い方をしっかりと把握し、相手に的を絞らせないプレーで光り輝いている。

 ハーゼンヒュットルはバイエルン戦後に「われわれのシステムはすべての選手がシンクロして動くことで初めて機能する」と語っていた。その言葉通り、ライプツィヒは攻守に迷いが極めて少ない。一度ボールが転がりだしたら、さまざまなことが起きるのがサッカーだ。何もかもを前もって準備しておくのは不可能だろう。だからと言ってそのすべてを選手に依存してしまうと、ゲームをコントロールすることができない。戦い方のベースを可能な限り整理するのが戦術であり、可能な限り自分たちが狙う状況を作り出すために戦略が重要になるわけだ。そしてその難業をハーゼンヒュットルは高いレベルで浸透させている。

己の信じる道をぶれない心で突き進む

後半戦に向けて、どのチームも対策を練ってくる。ライプツィヒはどう対処するのか 【写真:ロイター/アフロ】

 数年前にラングニックがドルトムント時代のユルゲン・クロップ(現リバプール監督)が行う練習の何がすごいのかというテーマで「ドルトムントの練習のほとんどは相手がボールを持っている状況からスタートしたもの。どのように追い込み、奪い、そこから攻撃を仕掛けるのか。それこそが試合の状況」と話していたことを思い出した。 まさにライプツィヒがやろうとしていることそのものだ。

「現時点でライプツィヒ以上に魅力的で、セクシーで、魅惑的なサッカーをしているチームを5つ挙げてみてくれ。バイエルン・ミュンヘンがいまわれわれをまじめにライバルとして見てくれているというのは、大きな賛辞として受け取るよ」とラングニックは高らかに語っていた。どのチームも後半戦に向けてライプツィヒを研究し、対策を練ってくる。昇格チームをこのまま走らせるわけにはいかないと、それこそ目の色を変えて試合に臨んでくるだろう。だが、それに対する研究と対策もラングニックとハーゼンヒュットルが怠るはずはない。

 己の信じる道をぶれない心で突き進む。その挑戦心は見るものをどこまでもわくわくさせてくれる。期待せずにはいられないではないか。

2/2ページ

著者プロフィール

1977年7月27日秋田生まれ。武蔵大学人文学部欧米文化学科卒業後、育成層指導のエキスパートになるためにドイツへ。地域に密着したアマチュアチームで経験を積みながら、2009年7月にドイツサッカー協会公認A級ライセンス獲得(UEFA−Aレベル)。SCフライブルクU15チームで研修を積み、016/17シーズンからドイツU15・4部リーグ所属FCアウゲンで監督を務める。「ドイツ流タテの突破力」(池田書店)監修、「世界王者ドイツ年代別トレーニングの教科書」(カンゼン)執筆。最近は日本で「グラスルーツ指導者育成」「保護者や子供のサッカーとの向き合い方」「地域での相互ネットワーク構築」をテーマに、実際に現地に足を運んで様々な活動をしている。

新着記事

編集部ピックアップ

コラムランキング

おすすめ記事(Doスポーツ)

記事一覧

新着公式情報

公式情報一覧

日本オリンピック委員会公式サイト

JOC公式アカウント