妥当な結果に終わったエル・クラシコ バルセロナの消極性が招いた同点弾 

イニエスタの投入で取り戻した本来のプレー

バルセロナはイニエスタの投入によって、失いかけていた本来のプレーを取り戻した 【写真:なかしまだいすけ/アフロ】

 一方、バルセロナが徐々にチームとしての機能性を失いつつある原因は、以前は中盤にあった最大の強みが前線の破壊力へと移ったことだけではない。攻撃を組み立て、前線の南米トリオ(メッシ、スアレス、ネイマール)にチャンスボールを提供するまでのプレーをイニエスタのマジックに依存しすぎているため、彼の不在時はメッシがかなりポジションを下げてプレーしない限り(それは彼に多大な消耗を強いる)、同じ役割を果たせる選手がいないことも一因となっている。

 イニエスタをけがで欠いたここ数試合、ルイス・エンリケ監督はアンドレ・ゴメスを代役として起用してきた。彼はインサイドハーフやトップ下、セカンドストライカーといったポジションで最も能力を発揮する選手であるが、後方からゲームを組み立てる役割は得意としていない。それはラフィーニャやアルダ・トゥランにも言えることだ。

 ほとんどレアル・マドリーのゴールに近づくことができない中、イニエスタが登場したのは、内容の乏しい展開でスアレスがヘディングシュートを決め、リードを得た後のことだ。ただ、交代を命じられたのは予想されていたアンドレ・ゴメスではなく、イバン・ラキティッチの方だった。

 そしてイニエスタの投入とともに、バルセロナは本来のプレーを取り戻した。アルバセテ(カスティーリャ・ラ・マンチャ州の県)が生んだクラック(名手)がシンプルかつタレントに溢れたプレーでチームを立て直し、中盤と前線を行き来しながら2つの役割をこなしていたメッシを解放することで、バルセロナは後半半ば以降にかつての機能性を取り戻すことができた。

バルセロナがリーガを制するために必要なことは?

バルセロナがリーガのタイトルを守るためには、プレー内容の大幅な改善が不可欠だ 【写真:ロイター/アフロ】

 もちろんイニエスタ1人であらゆる問題を解決できるわけではない。

 今季これまで何度も不安定なプレーを露呈してきたゲーム終盤、バルセロナはイニエスタの投入によって取り戻した本来のプレーを維持するのではなく、最低限のリードを保ちたい気持ちから、おのずとラインを下げ始めてしまう。

 そのためレアル・マドリーはマルク・アンドレ・テアシュテーゲンが守る相手ゴールへと近づくためのスペースを見いだし、ここ数週間は安定感の欠如が目立ったディフェンスラインを思い切って押し上げたことで、勝利に等しい引き分けを目指して攻めに出る意思を見せるようになった。

 こうして試合終了間際の後半45分に生まれたセルヒオ・ラモスの同点弾は、レアル・マドリーが攻めに出た成果というより、バルセロナの消極的な姿勢が招いた代償だったように思える。いずれにせよ、90分間を通して見れば引き分けは妥当な結果だった。

 まだまだ今季は長い。だがバルセロナがリーガのタイトルを守るためにはプレー内容を大幅に改善する必要がある。クラシコの後半に見られた通り、イニエスタの復帰は失われたプレーを取り戻し、行き先を見失ったまま航海を続けているチームの方向性を修正する助けとなるはずだ。

(翻訳:工藤拓)

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著者プロフィール

アルゼンチン出身。1982年より記者として活動を始め、89年にブエノス・アイレス大学社会科学学部を卒業。99年には、バルセロナ大学でスポーツ社会学の博士号を取得した。著作に“El Negocio Del Futbol(フットボールビジネス)”、“Maradona - Rebelde Con Causa(マラドーナ、理由ある反抗)”、“El Deporte de Informar(情報伝達としてのスポーツ)”がある。ワールドカップは86年のメキシコ大会を皮切りに、以後すべての大会を取材。現在は、フリーのジャーナリストとして『スポーツナビ』のほか、独誌『キッカー』、アルゼンチン紙『ジョルナーダ』、デンマークのサッカー専門誌『ティップスブラーデット』、スウェーデン紙『アフトンブラーデット』、マドリーDPA(ドイツ通信社)、日本の『ワールドサッカーダイジェスト』などに寄稿

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