“伝家の宝刀”を抜けなかった浦和 高く険しいプレッシャーという最大の壁
勝負どころで一度も勝ち切れず
試合後、最後尾から仲間を見守ったGK西川周作(1)は、先制点を奪って以降、味方チームの挙動がいつもと異なり、普段通りのサッカースタイルを標ぼうできなかったと吐露した 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
シーズンを通した浦和の戦いは前年度よりベースアップしたし、遠藤、駒井善成らの加入や高木俊幸、青木拓矢らの台頭で選手層も格段に厚くなった。Jリーグ全体の戦力を見渡しても浦和の総合力は高く、だからこそ年間を通して史上最多勝ち点を得られたとも言える。しかし、それでも浦和はリーグ戦のタイトルマッチで勝てなかった。今季の幾多のゲームではストロングポイントを封じられても焦らず虎視眈々(たんたん)と勝機を見いだせた。しかしCS決勝第2戦では自陣でのビルドアップもままならず、じわじわと攻勢を受け、カウンターから失点し、PKを献上して逆転を許した。ビハインドを負ってからは試したこともないパワープレーでチームバランスを崩し、さしたる好機も得られぬままに敗戦を受け入れた事実に徒労感を覚える。
今季の浦和がタイトルを争う正念場はACLのFCソウル戦、ルヴァンカップ決勝G大阪戦、天皇杯4回戦の川崎フロンターレ戦、そして今回の鹿島とのCS決勝第2戦と計4回あった。このうち、実に3度がPK戦に持ち込まれ、鹿島との試合だけがアウェーゴール差による敗戦だった。PK戦に及んだ試合を引き分けとカウントするならば、やはり浦和は大勝負で一度も勝ち切れなかった。
CS第2戦後にGK西川周作と話した。最後尾から仲間を見守った守護神は興梠が先制点を奪って以降、味方チームの挙動がいつもと異なり、普段通りのサッカースタイルを標ぼうできなかったと吐露している。
「後方でのビルドアップ機会が少なかったですし、中央、サイドと局面を変えてパス展開することもできなかった。相手にプレッシャーをかけられても、それをかわして自らの攻撃に結びつけるのがレッズのサッカーなのに、今日はそれを表現できなかったように思います。今までずっと、このCSの第2戦が最大の勝負どころだと思ってきました。その重要な戦いで自分たちの力を出し切れなかったことを悔やみます」
ペトロヴィッチ監督が志向するサッカースタイルはリスクを冒した先にゴールへの道筋がある。しかし失点を恐れるチームは伝家の宝刀を抜けなかった。まるで禅問答のようだ。勝利のためにチャレンジできるか否か。2012シーズンに現チーム体制が発足し、数多の激闘を経た上で、これまでの浦和は死線を越えられなかった。一歩踏み出さねば未来は開けないと自覚しても、意識を変えられなかった。これは対象の限界を示しているのだろうか。
期待を背負い、戴冠を果たす覚悟を持てるか
日本最大規模の数を誇るサポーターは、いつでもチームを支えている 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
CS決勝第2戦の埼玉スタジアム2002は5万9837人の大観衆で埋まった。その中にはもちろん献身的にアウェーチームを支えた鹿島サポーターの姿もあった。しかし、スタジアムに集った大半は浦和レッズのユニホームを身にまとったサポーターで、彼ら、彼女らは壮麗なチャント、コール、手拍子でチームを後押しした。
だが、この絶大なサポートは今の浦和が乗り越えねばならない強烈なプレッシャーとなって選手の肩に降りかかる。地鳴りのような声援、織り成すコレオグラフィー、飛び交う叱咤(しった)激励は世界中のどんなクラブにも比肩する浦和の財産だ。だからこそクラブ、チームは一身に期待を背負うとともに、戴冠を果たす覚悟を求められる。
「普段通り」「冷静に」「落ち着いて」「楽しんで」「淡々と」。脳裏にそんな言葉が浮かぶ時点で、人は多大なプレッシャーを受けている。06年シーズン以来10年間リーグタイトルから遠ざかる今の浦和が克服すべき最大の壁はどこまでも高く険しい。
日本最大規模の数を誇るサポーターは、いつでもチームを支えている。チームを応援するためにスタジアムへ駆けつける。声を枯らして思いを届ける。感情をシンクロさせて笑い、泣く。
皆の期待に応える強さを、強靭な心を、揺るぎなき意思を持てるか。浦和に課せられた命題は深く重い。それでも、その先の未来に至上の歓喜があると信じたい。