“伝家の宝刀”を抜けなかった浦和 高く険しいプレッシャーという最大の壁
史上最多タイの勝ち点獲得も頂点に届かず
チャンピオンシップ決勝第2戦のキックオフ前には黙とうが行われた 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
心の支えにし、応援するプロサッカークラブのスタッフ、メンバーを突然亡くす喪失感は計り知れない。もし、自らのサポートするクラブが同じ悲劇に見舞われたらと思うといたたまれなくなる。亡くなった全ての方々の家族、親類、友人、そしてシェペコエンセのサポーターたちの心情をおもんぱかると、痛惜の念に堪えない。
2016年シーズンのJリーグは浦和レッズと鹿島アントラーズの間でチャンピオンシップ(CS)決勝が開催され、年間勝ち点3位の鹿島がホーム&アウェーの2戦合計でリーグ優勝を遂げた。頂点を目指すクラブ、チームの勇姿をこの目に見られることの幸せをかみしめ、今一度、今回の航空事故で命を失った全ての方々に心から哀悼の意を表したい。
浦和レッズの10年ぶりのリーグタイトル奪還はならなかった。試合開始早々7分にFW興梠慎三のゴールで先制したものの、前半40分に鹿島アントラーズFW金崎夢生に同点ゴールを許した。後半34分、DF槙野智章にFW鈴木優磨が倒されて得たPKを金崎が決めて鹿島が逆転。その後は浦和の猛攻も実らずに第2戦を1−2で終え、浦和は第1戦の1−0との合計で2−2としたが、アウェーゴール差で敗れた。
試合詳細は他のメディアやコンテンツでも述べているだろうから、これ以上は記さない。いずれにしても浦和はJリーグが定めたレギュレーションの下でタイトルマッチに敗れて戴冠を逸した。シーズンを通したリーグ戦で34試合を戦い、勝ち点を74まで積み上げても頂点に届かなかった。その事実を受け止めた上で、今季の浦和を振り返ってみたい。
大きな期待を抱かせたシーズン中の戦い
今季の浦和は自慢の攻撃に磨きがかかり、守備面も強化されたことでタイトル獲得に大きな期待を抱かせたが…… 【(C)J.LEAGUE PHOTOS】
その成果はシーズン序盤から早くも表れ、リーグ戦では1stステージ第3節以降10戦無敗を維持。また並行して開催されたACL(AFCチャンピオンズリーグ)では、グループリーグでディフェンディングチャンピオンの広州恒大に1勝1分けとし、シドニーFCとともにノックアウトステージへの進出も決めた。
しかし、同大会のラウンド16でFCソウルにPK戦の末に敗れてからは、急速にチームコンディションが下降する。直後のリーグ戦で鹿島、ガンバ大阪、サンフレッチェ広島に屈して3連敗してステージ優勝争いから脱落。この時点でチームは窮地に陥ったが、再び結束を高めて2ndステージで躍進し、13勝2分け2敗でステージ制覇、そして総合勝ち点をJリーグ史上最多タイの74にまで積み上げて年間勝ち点1位を決め、CS決勝へ駒を進めた。
今季の浦和はミハイロ・ペトロヴィッチ監督自慢のコンビネーションアタックに加え、サイド局面での1対1勝負に磨きがかかり、対戦相手は破壊的な浦和の攻撃に戦々恐々とした。また特筆すべきは守備面の強化で、リオデジャネイロ五輪では日本代表キャプテンを務めた遠藤航が湘南ベルマーレから完全移籍で加入して安定感を増し、ストッパーの槙野智章、森脇良太、ボランチの阿部勇樹、GK西川周作を中心としたディフェンス陣が鉄壁を誇った。たとえ試合の流れを掌握できずとも、慎重細心な試合運びで辛抱を重ね、勝負どころでギアチェンジして相手を仕留める。これまでのペトロヴィッチ監督体制下では見られなかった落ち着いた試合運びは根本からの変身を感じさせ、タイトル獲得に大きな期待を抱く動機付けにもなった。