西武・辻新監督の野球観に迫る 「大切なのは“アマチュア精神”」

週刊ベースボールONLINE

いかにして“打線”になるかが第一

練習に鋭い視線を送る辻監督。選手をしっかり見ることが 大切だと感じている 【写真=BBM】

――現状、打順は白紙でしょうか。何か辻監督の頭の中で描いているものは?

 当然、盗塁王を獲得した金子侑司はもっと出塁率を上げて1、2番に定着してくれればベストだと思っていますし、中村剛也やメヒアなど一発がある打者にクリーンアップを任せるでしょう。ただ、おかわり君(中村)は下半身に不安がありますから、用心しながら起用しないといけない。それに中村とメヒアはホームラン打者ですから三振も多い。だから、2人が並んだ状態が果たしてベストなのか、と。

――例えば日本ハムも大砲の中田翔、レアードはそれぞれ126三振、138三振を喫して、打順が離れるケースがほとんどでした。

 私が現役時代にはクリーンアップに秋山(幸二)、清原(和博)、デストラーデの、いわゆるAKD砲が並んでいました。この3人も強力でしたが、そのあとの6番に勝負強い石毛(宏典)さんがいたことで得点をより多く重ねる形になったと思います。そういった点も大事になるでしょう。ウチはどうしても重量打線というイメージがついていますけど、小技に長けた、嫌らしい選手が打線に組み込まれればバランスが良くなって十分に戦える。とにかくいかにして“打線”になるかを第一に考えていますよ。

――森友哉選手は捕手一本で考えているそうですね。

 キャンプでも外野と捕手の2つも一緒に練習できないでしょう。持ち前の打撃に加えて、守備を徹底的に磨いてまさに扇の要になってくれればと思います。

――さらに今年、打率3割9厘、24本塁打、82打点と好成績を挙げた浅村栄斗選手を“秋季限定”キャプテンに任命しました。

 浅村はセカンドを守っています。内野の要ですし、ショートが決まっていない中で、内野の中心となってやらないといけません。そういう立場に値する年齢で、それだけの力もありますから。それに、性格的にちょっとおとなしい感じも受けていました。そういったことも打破してもらいたい。

――辻監督からの“メッセージ”を受けた浅村選手が、どう変化していくか楽しみです。

 秋季キャンプでは実戦も入ってきますし、そういったときに内野をどうまとめてくれるか。特に二遊間はすべてのプレーに絡んでくるので。また違った部分が出てきてくれたらうれしいですね。

――やはり、選手の気質の変化も感じていますか。

 それは私たちの現役時代とは違いますよ。自分独特の世界を持っていて、「こいつは曲者だな」というような選手はあまりいないように感じます。みんな真面目。オフであっても、よく練習しますから。もう少しヤンチャ的な部分があってもいいのかなと思いますけど、そこは時代に合わせていかないといけません。

――黄金時代の西武で、若手選手の間でゲームボーイが流行ったとき、森監督は自ら購入して、実際に体験した上で選手に「確かにあのゲームは面白い。ただし、ほどほどにしなさいよ」と。選手に歩み寄ると言ったらおかしいですけど、理解することも必要なのですね。

 私は基本的にゲームをやらないから(笑)。ただ、選手との会話の中で時に冗談も言いながら、こちらもいろいろなことを感じないといけません。それに監督、コーチは常に選手を見ることが重要。動きがおかしいことに、すぐに気が付きますし、選手も見てもらっていると感じるだけでうれしいものですから。

準備はプロとして最低限のこと

――辻監督が考える野球をプレーする上で最も重要なこととは?

 選手がのびのびとプレーすることも一番でしょう。その中で、あらゆる状況において、チームの勝利のために何をすべきか考えることも心掛けてもらいたいです。チーム全員が勝利のために戦うこと。だから、派手なプレーではなくても、勝利に直結したのなら私は評価したいと思います。

――森監督も進塁打やファウルで粘った打席などを褒ほめ称えてくれたそうですね。

 私自身がそういったタイプの選手でしたから。例えば今年の日本シリーズ第3戦、大谷(翔平)のサヨナラ安打で決着がつきましたが、栗山(英樹)監督はその前に二盗を決めた西川(遥輝)を称賛しました。確かにあの場面、西川は相当なプレッシャーがかかっていたと思いますよ。そこで見事に決めた。大谷も「あそこで走ってくれたから気楽になりました」というようなことを言っていました。選手が心の底から、チームメイトの地味だけど勝利につながったプレーを称賛できる、それが本当に強いチームでしょう。

――確かに、そうですね。

 ということは、私は常に言っていますが、大切なのは“アマチュア精神”なんですよ。高校野球も社会人野球も、みんな勝って喜んで、負けて泣く。自分がいくら打ったって、甲子園や都市対抗に行けなかったら意味がないんです。だから、エラーだろうが何だろうが塁に出れば御の字ですし、とにかく相手より1点多く取れば勝ち。白星をつかめればチームも、ファンも喜ぶことができる。自分の成績は二の次で、チームの勝利が第一。選手には、それを最優先に考えてもらいたいですね。

――野村監督も社会人・シダックスの監督を務めたとき、「これが本当の野球だ」と思ったそうです。個人の数字は考えない。選手はみんな、勝つために何をすればいいかのみに、集中している、と。

 さらに選手に大切にしてほしいことは“準備”です。打席に入る際もいろいろな情報をしっかりと頭に入れて、投手と対する。守備でも同様です。準備した上での、プレーの中で当然、ミスも起こるでしょうが、積極的なものなら、そこは責めることではありません。とにかく、準備はプロとして最低限のこと。ここまでは誰でもできます。そこから先が、一流になれるかどうかの分かれ目になりますから。

――辻監督が、どのようにチームをまとめて、チームを頂点へ導いていくか非常に楽しみです。

 とにかく腹をくくってやるしかないでしょう。3年連続Bクラスに沈んでいますが、選手を育成するために来年を捨てるというわけにもいきません。やっぱり戦うからには狙うは優勝。Aクラスに入ることは最低限ですね。この3年間の屈辱を、選手たちがどのように考えて来年に臨むか。もちろん、言葉にしなくても、選手たちにとって糧になっているでしょう。私としては楽しみですよ。きっと選手たちは目の色を変えてやってくれるはずですから。

取材・構成=小林光男 写真=桜井ひとし、黒崎雅久(インタビュー)

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