【ノア】小峠篤司、金丸を退け再び二冠を目指す「自分のプロレスを貫き、磨くだけ」

スポーツナビ

いい試合をするには「我慢するしかなかった」

アマチュア時代の実績がなかったからこそ“耐える”プロレスを身につけてきた 【スポーツナビ】

――その考え方に行き着いた理由は?

 ジェラシーだった部分もあるんですよ。同じ世代の原田とかはレスリングで大阪の高校チャンピオンになったり、拳王も日本拳法で世界王者になっていたり、大原(はじめ)もメキシコで実績を積んできたりとか。それに比べて、僕には何もなかったのでジェラシーを感じていた。ただ逆に言えば、まっさらで、下積み時代も先輩とのスパーリングでボコボコにされ、我慢するしかなくて、今となってはそれが自分の耐えるという長所になってきたのかなと。

――技や力で魅せるというより、まずは相手の技を受け切るというスタイルが確立されてきたんですね。

 あと、これは脱線するかもしれないんですけど、僕はスロースターターなんですよ、基本的に。試合でも練習でもそうなんですけど、自分に火をつけていくという形が多くなって、そういう意味ではやっぱり耐えるのが向いているし、試合の中で自分を起こしていくのが向いているんですよね。

――そういう耐えるスタイルで、憧れたり、意識している選手はいますか? 例えば、昔ならアントニオ猪木さんの「風車の理論(相手の強さを引き出してから、自分がそれを上回る力を出すこと)」のような?

 ああそうですね。よくあの時代に日本人と外国人選手が対戦するとそんなイメージでしたね。ただ憧れとは違うんですよ。僕やってファンだったら、華のある選手のほうが好きだし、そっちにしか目が向かないと思うんですけど、やっているうちにそういうところを評価してもらえるようになってきたのがうれしかったので。(技を)受け続けてきたというより、何もなかったので受けるしかなかったんです。一応、攻め方もプロになって教えてもらってますけど、アマチュア時代に実績を積んできている人にすぐに追いつけるもんじゃないので、いい試合をしようと思ったら必然的にただ我慢するしかないと。
 大阪時代も、試合は黒星だったとしても、先輩に「やられているのが、絵になるな」と言われていて、ガンガン前に行くだけじゃなく、そういうスピリッツを大事にしようと思っていました。

相性の悪かった鈴木軍との抗争

――このスタイルを確立する上でターニングポイントとなった試合や出来事はありますか?

 ターニングポイントか……。この試合というのはなくて、「やられているけど、いい表情、いいスピリッツしているね」と言ってもらえたのが、亡くなられていますが、レフェリーのテッド・タナベさんでした。タナベさんに言ってもらえたその一言が衝撃だったんです。負けん気だけで行っていたのが、やられてもプラスに変えてくれる一言だったので衝撃的でした。
 あと最近で言うと、ざっくりした感じになりますが、杉浦貴との試合が結構そういう試合になることが多いですね。今は鈴木軍という立ち居地ですけど、昔はもっともっと自分の中から出させてくれるというか。あの人は、口に出して言うわけではないですけど、試合中に「お前まだ出せるだろ、もっと出せるだろ」と言われているような感じがして。こういうスタイルでやっていると、試合が終わってから気持ちいいんですよね。悔いが残らないというか。ここまで耐えて、耐え切ったのに勝てなかったら実力不足だなと受け入れるしかないというか。

――そういう意味では、ノア伝統の真っ向勝負的なプロレスが自分の中で開花する原因になった?

 それもありますけど、やっぱり10年以上のキャリアを積んできた中で、いろいろな試合を経験し、ノアに入って1年目は、杉浦貴やKENTAさん(現イタミ・ヒデオ)もいたりして、バッカバカにいかれても、まっすぐに全部我慢していかなきゃと。ノアのイメージはとことんやられても返して限界までやるという感じだったので、それで入門したのもあるので、そういうスタイルが好きだったんでしょうね。

 ただ最近、鈴木軍が来襲してきて、とことんガンガン来いというスタイルを“すかす”ようなユニットが現れて、自分としては相性が悪かったんですよ、メチャクチャ。タイチとか、今は負け越していますし。原田に勝利して初めてベルトを獲った後、流出させてしまった相手がタイチでした。どうしても相性が悪いというか、来いと思っても来ないし、行っても来ない。“暖簾(のれん)に腕押し”じゃないですけど、それで考えさせられたというか、自分の今まで磨いてきたスタイルじゃ通用しないのかと思って。それでも考えた結果、金丸義信が鈴木軍に加わり、あんなすごい空中技を使う石森(太二)さんが負けて、拳王や大原も勝てなくて、次のチャレンジャーになった時に、その3人でも勝てなかったとしたら、もう自分の長所を出して戦うしかないと開き直れたんですよ。いろいろ考えた挙句、鈴木軍が相手でも自分の形を崩さない方がいいなと思って。

――ある意味、正反対の選手と対峙する中で、自分がやってきたことを貫くのが正解だったと気づいた。

 そうですね。余計なことをしなくて良かったなと思いました。最近は「自分のプロレスをするだけ」とずっと言っています。ここだけはぶれたらダメだなと。
 相手が誰だろうと、金丸義信はすごく強い相手だと思いますが、自分がチャンピオンになって立ち居地が変わったとしても、自分のプロレスをするだけ。前哨戦の間もずっとひたすら自分のプロレスを磨くだけかなと思います。

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