NBAにあって日本にはない文化 試合に彩りを添える“トラッシュトーク”

杉浦大介

80〜90年代より生ぬるい現代

引退を発表したガーネットもまた、古き良き時代を感じさせるトラッシュトーカーだった 【Getty Images】

 主に90年代に活躍したデニス・スコット(現在はNBAアナリスト)が『NBA TV』に出演した際、80〜90年代のトラッシュトークは今とでは比べものにならないレベルだったと証言していた。

「『君たちじゃゲイリー・ペイトン、レジー・ミラー、ラリー・バード相手にはプレーできないよ』と若い選手たちをからかったりもする。当時のトラッシュトークは違う種類だったからね。彼らに散々ののしられて、しかもスコアボードを見上げると、30得点以上を許してしてしまっているんだから」

 ジョーダン、ペイトン、コービー、チャールズ・バークレー、ミラー、アレン・アイバーソン、バード……歴代有数のトラッシュトーカーと呼ばれる選手たちは、実際にNBAに名を残す名選手ばかりだ。

 彼らは達者な口を有効に使い、自分を優位にするすべを心得ていたのだろう。“史上最高のトーカー”の呼び声高いペイトンなどは、相手選手の家族に関してなど口汚くののしっていたという。だとすれば、スコットの言葉通り、現代のトラッシュトークはかつてよりだいぶ生ぬるいのかもしれない。

 そして、そんな現代において、古き良き時代を感じさせるトラッシュトークのエピソードをいくつも残してくれたのがガーネット、ピアースだった。

 ブルックリン・ネッツ時代の14年のこと。ピアースは試合中にマーカス、ジェフのティーグ兄弟(当時アトランタ・ホークス)を「おまえらはこのリーグでもダントツのブサイク兄弟だ!」などとコートサイドからののしり、その音声がテレビに捉えられて話題になった。

 ガーネットがセルティックスでプレーしていた10年、全身性脱毛症のチャーリー・ビラヌエバをコート上で「がん患者!」と呼び捨てた。この時はさすがに「配慮に欠ける」と多方面から批判を浴びる事態に発展。のちに「おまえはチームにとってガンのような存在という意味だった」と釈明していたものである。

米国ではNBA名物の1つとして定着

「おまえの奥さんはハニー・ナッツ・チェリオス(米国で人気のシリアル)の味がしたぜ!」

 懲りないガーネットは、13年のニューヨーク・ニックス戦中にカーメロ・アンソニーにそう告げ、カーメロをかつてないほどに激怒させたこともあった。カーメロの怒りは試合後も収まらず、セルティックスのロッカールームに詰め寄って騒然。この件は、殿堂マディソン・スクウェア・ガーデン史に残る珍事件として記憶されている。

 こういった口喧嘩のエピソードに眉をひそめる人も少なくないのだろう。とにかくスポーツは正々堂々、武道のように悲壮感も漂わせる日本スポーツ界には縁遠いものなのかもしれない。しかし、プロスポーツがエンターテインメントとして考えられている米国では、トラッシュトークも名物の1つとして定着している。ゲームに彩りを添えるエッセンスとして、舌戦にも魅力があることは否定できないはずだ。

 カリーの言葉通り、「トラッシュトークはNBAの一部」――。これから先も、少しずつ種類を変えながらも、コート上の舌戦は続いていくのだろう。NBAからトラッシュトークが消えることはない。そして、ピアース、ガーネットのような口達者が残した破天荒なエピソードは、彼らのプレー同様に時を超え、このリーグで語り継がれていくに違いないのである。

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著者プロフィール

東京都生まれ。日本で大学卒業と同時に渡米し、ニューヨークでフリーライターに。現在はボクシング、MLB、NBA、NFLなどを題材に執筆活動中。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボール・マガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞・電子版』など、雑誌やホームページに寄稿している。2014年10月20日に「日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価」(KKベストセラーズ)を上梓。Twitterは(http://twitter.com/daisukesugiura)

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