bj王者・琉球が迎えた特別なホーム開幕 “沖縄とともに”Bのトップクラブへ

下地麗子

アリーナに加えたいくつかの変化

Bリーグ仕様に大きく変化が加えられたホームアリーナ。コート上にあったスポンサー名は、新設された大型ビジョンで紹介する形になった 【下地麗子】

 沖縄バスケ新時代の幕開けを告げる琉球のホーム開幕戦、この日のチケットは完売し、試合開始2時間前の沖縄市体育館には長い行列ができていた。アリーナ前に設置された選手たちの看板前には、うれしそうに記念撮影を行う子供たちの姿もあった。

 開幕を楽しみに待っていたブースターのために、琉球はアリーナにいくつかの変化を加えた。昨シーズンとの違いは、まず入り口から始まる。これまで1階と2階に分けていた入り口は、VIP以外は2階に統一した。理由は、選手たちがプレーするコートを見下ろしてもらうため。プロ仕様のコートを目の当たりにしてもらい、非日常・異空間の舞台がスタートするという高揚感を演出した。

 そしてブースターがまず目にするであろうコートには、bjリーグとBリーグの大きな違いがあった。

 これまでコート上に大きく載っていたスポンサー企業名が、Bリーグでは載らなくなったのだ。Bリーグの中継はNHKで行われることが多い。そのため、企業名の露出を避けたいNHKに配慮し、コートに企業名を載せることを禁止にした。これは多くの企業に支援をお願いしてきた琉球にとって大きな懸念事項だった。

 それでは、コートにあったスポンサー名はどこに配置されたのか。それは、今シーズンから観客席に設置された約40メートルの大型ビジョンの画面にあった。多くのスポンサー名が入れ替わりで表示され、試合終盤には次回のホームゲームの告知などもできる。各球団にとってデメリットとも思われた変更を、琉球はより活用しやすいものに変えた。

 試合直前、選手紹介を前に暗転するアリーナ。すると、音楽とともに今シーズンから設置したカラーレーザーがアリーナを彩った。超満員の3520人のブースターが興奮し大声援が起こる。

 いよいよ沖縄に熱いバスケの季節がやってきた。

シーズンテーマは「BeStronger」、沖縄とともに強くなり続ける

今シーズンのテーマ「Be Stronger」は、チーム・フロントを合わせたクラブ全体で取り組むテーマだ 【下地麗子】

 今シーズンコートに立つ琉球の選手は13人。インサイドの強化を目指すチームは、ベテランの日本人フォワード、波多野和也やレベルの高い海外リーグでの経験を持つビッグマン、ラモント・ハミルトンらを獲得しBリーグに挑む体制を整えた。

 元bjリーグの滋賀レイクスターズとの対戦となったホーム開幕戦は、bjリーグ王者の琉球にとって絶対に落としたくない試合だった。第1Q、琉球は昨シーズンから続く「人とボールが動き続けるバスケ」を展開し、25対9と滋賀を引き離す。しかし第2Qで滋賀に6連続得点を許し、31対30とわずか1点差で前半を折り返すと、第3Qには一時逆転を許してしまう。

 新シーズンが始まったばかりのチームはパスミスも多く、試合は両チームが互いに相手の得点源を抑えるロースコアの展開となった。それでも琉球ブースターはチームの勝利を信じて声援を送り続ける。

「ゴーゴーキングス! ゴーゴーキングス!」

 MCと音楽で盛り上げるのが琉球の応援スタイルだが、時にそれは無音になり、ブースターの声援だけがアリーナに響き渡る。ブースターの声が何よりも選手の力になる。

 44対44の同点でむかえた最終第4Qは、両チーム3分以上も得点がない我慢比べになった。そのこう着状態を破ったのが、08年から琉球に在籍する精神的支柱、アンソニー・マクヘンリーだ。体を張ったプレーでゴールに切り込みバスケットカウントを得ながら得点すると、新加入のハミルトンも続いてゴールを決める。

 この得点に飛び上がって喜んでいた64歳の女性ブースターは「ブースターの声援に応えて選手たちが頑張るのが琉球の魅力です。琉球の試合を見るまではバスケのルールさえ知りませんでした」と声を弾ませて語った。

 最後の最後まで1点を争う接戦となった試合は、喜多川のジャンプシュートやマクヘンリーのパスカットなどで滋賀に流れを渡さなかった琉球が59対56で競り勝ち、Bリーグ初勝利を収めた。

 A東京との開幕戦も観戦したという41歳の男性ブースターは「大型ビジョンやカラーレーザーなど会場が今まで以上に洗練されていて、新リーグになったことを実感できました」と語り、毎試合5人家族で応援に駆け付けるという9歳の男の子は「琉球の試合を見てバスケを始めました。今日も楽しかったです」と満足そうに話した。

 試合後、沖縄出身の伊佐勉ヘッドコーチ(HC)は久しぶりのホーム戦の雰囲気を「きーぶたっちゃー」と表現した。沖縄の方言で「鳥肌が立つ」という意味だ。HCはこう語った。

「今日はアウェーゲームだったら負けていた内容でした。沖縄のホームの力はとても大きく、ここで負けるわけにはいかないと思った。琉球ブースターの力を借りながら、ブースターの心に届くようなバスケットをして、クラブとファンと沖縄全体で毎試合、戦っていきたいと思います」

 コーチ、選手のインタビュー終了後、広報活動が終了した企画部の宮城さんに話し掛けると「こんなにヒヤヒヤした試合展開が毎試合続くかと思うと、少し疲れますね」と苦笑いを浮かべていたが、これから続く長いリーグ戦に向けて記者たちと楽しそうに話すその表情には充実感も見て取れた。

 琉球が掲げる今シーズンのテーマは「Be Stronger」。厳しい戦いが予想される新シーズン、日々努力を続けて成長し、1秒前よりも強くなるという覚悟が込められている。実はこのテーマを考えたのは宮城さんだ。

「Bリーグの開幕で全てのチームが同じスタートラインに立ちました。ここからの各クラブの努力がBリーグの盛り上げにつながる。琉球はその先頭を走っていたいと思います」

「Be Stronger」は選手だけではなく、チーム・フロントを合わせたクラブ全体のテーマのようだ。新時代を迎えた日本バスケ界のトップクラブを目指して、沖縄とともに戦う琉球の新たな挑戦がスタートした。

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著者プロフィール

熊本県出身、元琉球朝日放送・熊本県民テレビアナウンサー・スポーツキャスター。現在、琉球放送スポーツキャスター。2016年結婚・出産を機に熊本から沖縄県那覇市に移住。旧姓 河合。ニュース番組を中心にキャスター・リポーター・ディレクターなどを務め、九州・沖縄をフィールドに取材活動を行う

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