開幕からローテーション守る前田健太 フル回転の活躍でドジャースは地区V目前

鈴木良枝

アクシデントもあったが安定したピッチング

チームメイトともコミュニケーションを取り、信頼を勝ち取った前田 【Getty Images】

 前田は開幕から好投を続け、4月は5試合の先発で3勝1敗、防御率1.41という驚異的な数字を残した。

 5月は1勝と、勝ちに恵まれない時期もあったが、28日のメッツ戦では初回に右手に打球が直撃するアクシデントに見舞われながらも続投を志願し、チームに勝利をもたらしている。次の登板は中1日増やしたが、登板をスキップすることなく6月3日のブレーブス戦に先発し5勝目を挙げた。

 6月14日のダイヤモンドバックス戦では、今度は右脚に打球を受けるアクシデントが襲うも、19日には中4日でマウンドに上がり、7回途中まで気迫の投球を見せた。

 チームに激震が走ったのは6月30日。腰の違和感でチームを離れていたカーショーが軽度の椎間板ヘルニアでDL入りとなった。そんな不穏な空気の中、マウンドに上がった前田はチームの勝利に貢献する好投できっちり自分の仕事をこなした。

 先発の合間には代走、代打でも起用され、前半を8勝6敗で折り返す。前田は「いい時も悪い時も経験できた。悪い結果をしっかり受け止めて、自分なりにいろいろとピッチングについて考えることもできた」と前半戦を振り返っていた。

 7月23日のカージナルス戦では、34度の高温多湿の中での登板。絶妙なスクイズで先制点に絡み、過酷な環境下でも自分のパフォーマンスができる事も証明。本人は「序盤は暑さを感じたけど、だんだん慣れてほとんど気にならなかった。広島ではこの時期はもっと暑い中でも投げていたので」とクールに言ってのけた。

 後半戦も好投を続け、苦しい時も粘りの投球でしのぎ、8月はチームが首位攻防を繰り広げる中、4勝1敗と抜群の安定感を見せた。

修正能力の高さも発揮し信頼勝ち取る

「長いシーズンの中で、良い時もあれば悪い時もある。大事なのは162試合を終えた時にどんな結果が出ているか。状態が良くない時であっても、いかにしてゲームを作るか、ケンタは1年目にして既に習得し適応していると思う」とドジャースのビートライターの1人であるJP・ホーンステラ記者。

 正捕手のヤスマニ・グランダルとは、最初うまくかみ合わないこともあったが、コミュニケーションをとって改善した。

「ケンタは自分がどんなピッチングをしたいか言ってきたんだ。カーブ、スライダー、チェンジアップ、ファーストボールの4つの球種を全て使うことで、ストライクゾーンを有効に使えるようになる。今は意見が一致してるね。彼は本当にいい球を持っているよ」

「アメリカの生活や野球という日本との違いに早く慣れて、中4日のスケジュールで1年間ローテーションをしっかり守ってほしい」とロバーツ監督は開幕直後に話してくれたが、今では「その答えははっきりしているだろ」と笑う。

「ケンタは本当に勉強熱心なんだよ。データ収集を行い、鋭い洞察力を持っていて、打者のスイングを見て、自分のピッチングに役立てている。そして修正能力も高い。いつもチームのために戦ってくれて、本当に感心するよ」

プレーオフの活躍次第で全国区の存在に

 前田自身はこの優勝争いについて「いい緊張感の中で戦えている」と語る。

 ドジャースは3年連続でナ・リーグ西地区を制している。しかしながら、近年のポストシーズンでの成績は地区シリーズ敗退が多く、2013年のリーグ優勝決定シリーズ進出止まり。なかなか先に進めていない。

 今年のドジャースはどうか。故障者続出で厳しいチーム状況に追いやられた事が、逆にチームとして良好に機能したように思う。前半は得点力不足が否めなかったが、コーリー・シーガーのような若手の台頭もあり、若手とベテランがうまく融合している。

 カーショーのDL入りが決まった時、ロッカールームでは選手たちが「じゃあなんとかやってやろうじゃないか!」と奮起したという。実際にカーショーがいない2カ月半は大きく貯金を増やし、地区首位に浮上した。

 そして昨年より格段にチームの雰囲気が良い。ここ数年は、金満球団にありがちな補強で、強打者が並び威圧感があった。時にクラブハウスで怒号が聞こえる事もあり、お世辞にもチームワークが良い集団とは程遠かった。しかし今年は生え抜きとベテランのバランスが良く、一緒に窮地を乗り越えたことで一丸となっている。

 ここ数年は、ポストシーズンでの日本人先発投手の活躍がほとんど見られなかったが、今年は見られそうだ。ワールドシリーズでの先発登板となれば07年レッドソックスの松坂大輔以来9年ぶりとなる。

 西海岸での前田の知名度は確実に上がっているが、残念ながら今はまだ全国区とまではいかない。

 7月23日に前田に投げ負けたカージナルスのマイク・リークにその時の印象を聞く機会があった。「前田? タフな投手だった。でもよく知らなかったな」これが現状である。

 しかし、このポストシーズンでその名前を全米に知らしめるかもしれない……その可能性は多く秘めている。

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著者プロフィール

サンフランシスコ在住。テレビ局勤務。スポーツリポーター、AP、コーディネーター。高校野球の監督だった父親の影響で高校・大学では野球部のマネージャーを務める。大学時代よりプロ野球やMLB中継に携わる。テレビ局のスポーツ局での勤務を経て、その後拠点を米国に移す。現在はサンフランシスコ・ジャイアンツやサンフランシスコ49ersなどスポーツの取材を中心に行うほか、コーディネーターとして幅広くテレビ番組の制作にも関わっている。

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