試行錯誤の「サンパオリ&リージョ体制」 清武はしっかりとチームに根を下ろす
ポゼッション&攻撃サッカーが期待されたが……
サンパオリ監督(右)とリージョ助監督(左)の組み合わせなら、ポゼッション&攻撃サッカーしかないと誰もが思っていたが…… 【Getty Images】
マルセロ・ビエルサを信奉するホルヘ・サンパオリ監督と、ジョゼップ・グアルディオラが“マエストロ”と呼ぶフアン・マヌエル・リージョ助監督の組み合わせなら、ポゼッション&攻撃サッカーしかないと誰もが思っていた。「自陣のゴールよりも相手のゴールを見る」「成功は約束できないが、夢を見させることは約束する」という7月4日(現地時間、以下同)の入団会見のサンパオリの言葉も耳に心地良く響いたものだ。
欧州で30位にも入らないセビージャの資金力では、チャンピオンズリーグ(CL)優勝を目指すことはできない。ウナイ・エメリ前監督が成し遂げたヨーロッパリーグ(EL)3連覇はこのクラブが到達し得るピークであり、スポーツディレクターのモンチが次のステップとしてプレー内容に注目したのは、理に適っている。
勝負強いが保守的で硬直化し、面白味に欠けたエメリのサッカーではなく、リスキーで自由で楽しいサンパオリのサッカーでスタジアムを沸かせる――。8月20日にエスパニョールを6−4で撃破したリーガ・エスパニョーラ開幕戦は、ゴールの数といい、GKとセンターバック(CB)2枚と守備的MFの3人だけで守る、攻守比率8対3の布陣「2−3−3−2」といい、期待通り、いや、期待以上のスペクタクルな内容であった。が、あの衝撃的なデビューを頂点に興奮は冷めつつある。
28日のビジャレアル戦では3バックを維持しつつも、後方に人を割く「3−4−2−1」で攻守比率を6対5に下げるも、GKセルヒオ・リコの好守に救われての0−0。それではと、インターナショナルマッチウイーク明けとなった9月10日のラス・パルマス戦は、4バックの「4−1−4−1」で攻守比率5対6の安全策で臨むも、ミスジャッジに助けられた2−1の薄氷勝利。14日のCLユベントス戦はエメリもあっと驚く3ボランチ&FW不在の攻守比率3対7の超守備的「4−3−3」でスコアレスドロー。そして17日のエイバル戦は攻守比率は5対6に戻した「4−3−3」で、10人相手に圧倒されてリードを守れず1−1……。
出来過ぎの結果が批判の声を小さくしている
エスパニョール戦では1ゴール1アシストを記録するなど、清武個人としてはしっかりチームに根を下ろしている 【Getty Images】
攻守バランスをいじって守備を改善しようとしたら攻撃の方が機能しなくなり、「攻撃こそが最大の防御」という大前提が崩れたことで、守備力は若干改善したものの、それ以上に攻撃力がダメージを受けている、というのが「サンパオリ&リージョ体制」の現状なのだ。
そんな指揮官の試行錯誤で右往左往するチームだが、清武弘嗣個人としては、しっかりチームに根を下ろしたと言っていい。
リーグ戦とCLの5試合中、3試合に出場し、エスパニョール戦では1ゴール1アシスト、エイバル戦でも1アシストと好調さが数字にも表れている。欠場した2試合にはちゃんとした理由がある。ラス・パルマス戦でベンチ外だったのは日本代表に招集されたことによる疲労のため。ユベントス戦でベンチを温めたのは、守備的MFスティーブン・ヌゾンジ、マティアス・クラネビッテル、ビセンテ・イボーラを総動員する布陣だったから、攻撃的MFの中では最も守備ができる清武が不要だったため。仮に3人のうち誰かが欠けていたら清武が先発していただろう。
このユベントス戦の残り15分、スコアレスドローで逃げ切る方向性が明確に見えてきた時間帯で、「フランコ・バスケスを下げて清武を入れるべき」という意見がテレビ解説者から出ていた。攻撃を諦めて守りを固めるべきというもので、私も同感だった。セビージャには清武をはじめ、バスケス、パブロ・サラビア、サミル・ナスリ、パウロ・エンリケ・ガンソと5人のトップ下タイプの選手がいるが、清武の守備力が最も高い。前へのプレスも自陣に素早く戻ってのカバーリングも忠実で、他の4人のようなアップダウンがない。足元の技術が高くボールを失わないことも、ボールキープを守備とするこのチームでは“守備力”と見なしていいだろう。