あふれる悔し涙は、東京へのステップ パワーリフティング西崎が誓う恩返し

荒木美晴/MA SPORTS

失敗に終わったリオでの試技

パラリンピック初出場となった舞台で、西崎は本来の力を発揮することができなかった 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

「1キロでも重く――」
 そう心に決めて臨んだ初めてのパラリンピックは、悔し涙とともに終わってしまった。

 現地時間9日に行われたパワーリフティング男子54キロ級に出場した西崎哲男(乃村工藝社)。試技では127キロに挑戦したが、3本すべてで失敗した。自己ベストは136キロで、リオでの目標は「140キロ以上」。遠く及ばない成績に、西崎は肩を落とした。

 第一試技は確実に挙げられる重さを試すのがセオリーだ。リオでの自己ベスト更新を狙っていた西崎は、現地の練習で調子が上がらなかったことから、一度は130〜133キロに設定したが、確実性を高めるために127キロからのスタートを選んだ。この重さは練習でも失敗したことがなく、一本ずつ成功させて修正を重ねていく自信があった。だが、いずれの試技も失敗の判定。原因は、バーをラックから外してシャフトを胸の上に下ろす位置にわずかにズレが生じた、胸の上で行う「止め」がブレた、といったわずかなフォームの乱れだった。

「127キロが挙がらないなんて普段はない。焦り……なんだと思います。きれいに決めたいとか、気負った部分があったのかもしれません」

 試合後、報道陣の質問に答える形で試合を振り返った西崎。「……悔しい」。そう口にすると、一気に悔し涙があふれた。

単純かつ奥深いパワーリフティング

 もともとパラ陸上の選手だった西崎。車いすのT54クラスで、100メートル、200メートル、400メートル、1500メートルとトラック種目で多彩ぶりを発揮したが、ロンドンパラリンピック出場が叶わず引退。その後、東京パラリンピックの開催決定を機に、パワーリフティングへ転向した。

 下肢に障がいを持つ人におけるパワーリフティングはベンチプレスで勝敗を決める。男女ともに各10階級の体重別で競技が行われるが、障がいやその程度は関係ないのが特徴で、健常者の世界記録を上回る階級もあるというから驚きである。西崎自身も、単純に「1キロでも重く挙げたほうが勝ち」という点に魅力を感じている言い、「自分もそうした部分を広く伝えていきたい」と話す。

 ベンチプレスは計画的にトレーニングすれば記録は伸びるが、ある程度までいくといったん停滞し、そこからの「1キロずつ」がとにかく難しいという。その壁を超えるには、きちんと心身の休息を取ることが大事で、徹底した自己管理が必要になる。また、試合で試技をする際の持ち時間は2分あるが、実際にバーベルを持ち上げる時間は数秒で、その数秒にどれだけ集中できるかが成功のポイントになる。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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