あふれる悔し涙は、東京へのステップ パワーリフティング西崎が誓う恩返し

荒木美晴/MA SPORTS

会社への恩は、東京で返す

西崎は、所属先の乃村工藝社をはじめとする周囲からの支援に、感謝を口にする 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 やるからにはトップを目指すが、そんな奥の深い競技だけに、転向してからわずか3年でリオパラリンピックに出場することになろうとは、思ってもいなかった。だが、海外選手のランキング変更に伴って今年4月にバイパルタイト(編注:ランキングでの直接選出枠から外れている選手を対象に、国際パラリンピック委員会が認定する出場枠)での出場が決まり、「まさか、と思いました。現在の職場にも“東京を目指す”とアピールして入社したんです。その“東京”も根拠があるわけじゃなかったけれど、すごく応援してくれて。その恩を、いったんリオで返せるっていうのは、すごくうれしかったですね」

 アスリート雇用を希望する選手と企業をマッチングする日本オリンピック委員会(JOC)の「アスナビ」事業を利用して2014年に入社した乃村工藝社では、トレーニングも仕事として認められている。具体的なサポートとしては、コーチがおらず個人でジムに通うなど自己流で競技に取り組む西崎のために、会社にトレーニングルームを設置。そこに、国際パラリンピック委員会(IPC)公認の競技用ベンチ台を購入して置き、社内でも強化が図れるよう工夫した。
 また、西崎と同じクラスの強豪選手がいるベトナムチームと合宿する機会を作り、ベトナム人コーチに聞き取りをして、西崎に合った練習メニューの開発まで行った。さらに、社員が一緒に競技を楽しむ「パワーリフティング部」を社内で結成。西崎と社員が触れ合う機会が大幅に増え、西崎が出場する大会には、その「仲間たち」が応援に駆けつけるようになった。

「僕にとっては相談できる相手ができただけでもプラス。個人競技ではありますが、“ひとりじゃない”って思えるのはすごいことです」と西崎。会社や社員と信頼関係を築けたことが急成長につながったと実感しており、「本当にありがたい」と充実の環境に感謝する。今回も、社員が横断幕や寄せ書きを持参してリオに来ていた。納得いく結果が出せず心が折れかけたが、“いつもの声援”に励まされ、最後までやりきることができた。

 パワーリフティングでは、バーベルを挙げる際の肘の曲がりやブレなどが厳しくチェックされる。さらに競技レベルが上がるであろう4年後の東京では、誰もが認めるような正確な試技で、メダル獲得を目指すつもりだ。今度こそ最高の舞台で輝くために、「一からやり直します」と誓った西崎。その第一歩目は、ここリオの地から始まる。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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