ゴールボール、意表をつく戦略が的中 パラ連覇へ、貴重な勝ち点「1」獲得

荒木美晴/MA SPORTS

背番号の変更が奏功

リオ切符をつかむのに苦戦した小宮ら前回の金メダルメンバー。だからこそ、挑戦者の意識を持ってトレーニングを積むことができた 【写真:伊藤真吾/アフロスポーツ】

 ところで、ロンドン大会からの4年間を振り返ると、ゴールボール界にとっても日本にとっても、大きな変化があった。それは、ロンドン大会では女子ではあまり見られなかったバウンドボールが急増したことだ。その背景には使用するボールの変更がある。ロンドン大会で使用されていたカナダ製のボールからドイツ製になったのだが、このボールがカナダ製より2倍近く弾むとされているのだ。実はロンドン大会以前もこのドイツ製ボールは使用されていたのだが、今は当時よりも競技力が向上し、女子でもそのボールの特性を生かしたバウンドボールが主流になりつつあるというわけだ。

 だが、視覚情報がまったくないゴールボールではその弾むボールの処理は非常に難しい。ましてや体格で欧米に劣る日本にとっては、ビハインドな状況といえる。実際に、リオの出場権をかけた2015年の世界選手権では、外国勢の強く弾ませるボールに対応しきれず敗れ、日本は出場枠を獲得できなかった。

 ところが、その敗戦が未来に大きな影響を与えた。「金メダルチーム」のメンバーに「挑戦者」の意識が芽生えたのである。現状の問題を洗い出し、バウンドボール対策として男子を相手に練習するなど強化してきた。その結果、昨年11月のアジア・パシフィック選手権ですでにリオ出場権を持つ中国を破り、「最後の1枚」のリオ行き切符を勝ち取ったのだ。

 ディフェンディングチャンピオンとしてのプライド、それに挑戦者としてのたくましさが融合した日本代表。リオでは、「ライバルの国々から徹底的に研究されている」(市川喬一ヘッドコーチ)ため、それに対応する何パターンもの選手の組み合わせや戦略を用意するだけではなく、これまでの背番号を変更して登録するなど対策をとった。もちろん、顔で対戦相手を覚えている国もあるが、背番号で認識している国も多いためだ。後者だったこの日の対戦相手・イスラエルに対しては有効だったようで、「『おい、なぜ背番号を変えたんだ』と言ってきましたよ」と市川ヘッドコーチはニヤリ。

次戦は地元・ブラジルと対戦

 とはいえ、9日のブラジル戦は別の意味で冷静さが必要になりそうだ。ゴールボールは音源の入ったボールを使用し、選手はその転がる音で投球のコースやスピードを判断し、また味方同士の声掛けや足音などで互いの位置関係を把握するため、試合中は観客に向けて「クワイエット・プリーズ」とコールされる。だが、会場に詰めかけたブラジル人の観客は、試合が白熱するとつい応援の声が漏れてしまうのだ。当然、審判も最初に観客に説明するし、会場の四隅にいる係員が注意を促すプレートを出すのだが、なかなか浸透せず、初日の「米国対ブラジル」は何度か中断する場面が見られた。

 日本も完全アウェーの状況に追い込まれることが容易に想像できるが、「(騒音で試合を妨害するのは問題だが)明るく賑やかなのは国民性。選手にはカバーリングの位置関係の声出しをしっかりするように、とすでに指示を出しています」(市川ヘッドコーチ)とぬかりはない。

 安達も「たしかに会場は独特のブラジル色に包まれるけれど、自分たちでしっかり我慢すれば、十分勝負できると思う」と、ベテランらしく冷静に分析する。勝ち点3を加えて、予選リーグ突破に勢いをつけたい日本代表。次なる戦いに注目と期待が集まる。

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著者プロフィール

1998年の長野パラリンピック観戦を機に、パラスポーツの取材を開始。より多くの人に魅力を伝えるべく、国内外の大会に足を運び、スポーツ雑誌やWebサイトに寄稿している。パラリンピックはシドニー大会から東京大会まで、夏季・冬季をあわせて11大会を取材。パラスポーツの報道を専門に行う一般社団法人MA SPORTSの代表を務める。

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