「初めて本気で勝ちたいと思った」 山口茜を感化させたバド日本人対決

平野貴也

リオ五輪では準々決勝の日本人対決で敗れた山口茜(写真)は、まだ19歳。東京五輪での活躍も期待される 【平野貴也】

 世界一の舞台と同国対決が、ホープの心に勝負の火をともした。2020年東京五輪での飛躍が期待されるバドミントン女子シングルスの山口茜(再春館製薬所)は、ベスト8の成績で終えたリオデジャネイロ五輪を振り返って「初めて本気で勝ちたいと思った」と自らの変化を明かした。

 地元の指導者や愛好家たちに育てられ、有望株でありながら名門校に通うことなく地元・福井県勝山市で成長してきた山口は、15年の世界選手権を辞退して全国高校総体に出場するなど、結果やステータスを重んじることなく、自分らしいプレーを楽しむことを重視してきた。初めての五輪は、そんな彼女がプレーを楽しむことと、勝負の両立を見いだした大会になったようだ。将来を期待される彼女の心境にどのような変化が生まれたのか。リオ当地で本音に迫った。

「奥原さんに感化された」

――大会前は「他の大きな大会と同じように考えている」と話していましたが、初めての五輪に特別感はありましたか?

 周りの注目度とか、この大会に懸けている人が多いという部分は、他の大会とは違いました。ずっと勝山(福井県勝山市)で過ごしてきたことや、(再春館製薬所に入団して)移った熊本で震災が起こってしまったから(支援活動などを通じて地元の人に触れる機会が増えた)というのもあると思うのですが、私は、他の選手よりも応援してくれる人たちに接する機会が多い環境にいて、そういうものを大事にしたいと思ってプレーをしていました。

 やっぱり、周りの人にしてみたら(同レベルの大会でも)スーパーシリーズで優勝するよりも、五輪でメダルを取る方に価値があるから、五輪は自分が楽しく試合をできたかどうかではなくて、もうちょっと勝ちたかったというか、応援してくれる人がもう少し夢を見られるものがあったら良かったなと思います。

大舞台で奥原(左)と真剣勝負を戦ったことで、山口の心境には変化が生まれた 【写真:YUTAKA/アフロスポーツ】

――準々決勝では奥原希望選手(日本ユニシス)に敗れましたが、山口選手が第1ゲームからエンジン全開で仕掛けていったところや、負けて本当に悔しそうにしている姿がとても印象的で、いつもとは違うなと感じました。

 自分の中で、今回ほど勝利にこだわって試合をしたことはないという感覚があります。初めて「本気で勝ちたい」と思った分、初めて本気で悔しかったということだと思います。奥原さんは、誰にも負けたくない気持ちとか、日本のエースとしての自覚があると普段から言っていますよね。そういう大変なものを背負っている奥原さんが身近にいて、刺激になっている部分はあると思います。今回の奥原さんとの試合で、いつも以上に本気で勝ちにいった自分がいたのは、感化されているからかなと思います。

――「初めて本気で勝ちたいと思った」という言葉は、興味深いです。山口選手は普段、勝利へのこだわりよりも、自分らしいプレーを貫くことを重視する姿勢を強調していましたよね?

 これまでの奥原さんとの対戦では「1ゲームは取ろう」という感じで入って、自分のプレーがどこまで通用するか楽しみながら試合をしていました。でも、今回は捨て身で(1ゲーム目からプレースピードを上げて)いきました。他の、どの試合も勝ちたいと思ってプレーしていますけど、自分の中でいつもとは違う少し特別な感情がありました。だから、五輪に対して、自分の中にも少し特別な思いがあるのかなと、大会が終わってから思うようになりました。

――でも、なりたくなかった自分になってしまった、という意味ではないですよね?

 気持ちが守りに入らず、攻めている方がやっぱり自分らしくいられると思います。今回は、絶対に勝ちたいと思った試合でも、自分からラリーの展開を組み立てるプレーが多くできていました。だから、今後、もしも私が世界ランク1位になって、ランクが下の選手と対戦しても、相手に向かっていく気持ちを持ち続けられるんじゃないかという気がしました。そういう選手でいられれば(もっと勝利を求めても)いいかなと思いました。ラリーの組み立てを考えているときは、それが楽しくて、勝負はどうでもよくなっているような気もするんですけど(笑)。

 でも、初めて本気で勝ちにいったから、奥原さんから1ゲームを取れたと思っていますし、トーナメントの1回戦でタイのラチャノック・インタノン選手(13年世界選手権女子シングルス金メダル)に勝てたと思います。プレー自体を楽しむことはもちろん大事ですけど、インタノン戦は結果が伴って、ものすごく楽しくプレーできました。初めて「楽しみながら勝負にこだわる」という気持ちになって、これから、もう少し同じ気持ちを続けて一つ一つの試合に臨んでいければ、もう少し上の選手とも勝負できるんじゃないかなと思いました。

――実際、勝ちにいった中でも、サイドステップで右に跳びついて追いついた球をクロスへドロップでネット前に返すとか、相手に展開を読ませない、山口選手の持ち味が出ていたと思います。

 攻めて、最後はミスが増えて負けてしまいましたけど、自分らしいトリッキーなプレーを出して、見ていて楽しいプレーはできたかなと思います。日本の他の選手と同じように粘り強さが持ち味ですけど、それだけでなく(守勢から意表を突くプレーで攻勢に転じたり、カウンターを打ったりする)違いは、これからも大事にしていきたいです。

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著者プロフィール

1979年生まれ。東京都出身。専修大学卒業後、スポーツ総合サイト「スポーツナビ」の編集記者を経て2008年からフリーライターとなる。主に育成年代のサッカーを取材。2009年からJリーグの大宮アルディージャでオフィシャルライターを務めている。

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